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Since2013.10~「100万人の金色のコルダ」をベースに、吉羅暁彦理事長と日野香穂子の小説を連載していました。現在単発で吉羅理事長楽章ノベライズや勝手に楽譜イベ内容を補完した妄想小説を掲載中。R18小説・HコミックをDLSITEでダウンロード販売中。イラストや漫画も無料掲載中♪一部パスワードあり
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「理事長、知ってますか?今日の月ってスーパームーンって呼ばれるらしいですよ」
「……それは知っているが。それがどうかしたのかね?」
香穂子の問いかけに顔を上げもせず、PCに向かっている吉羅。

「……どうかしたのか、って言われても……」
まさかそんな返しが来るだなんて思ってもいなかったので、香穂子は口ごもってしまった。
そんな、木で鼻を括るような言い方をされるとは予想外だ。
ただ一緒に、美しい月を眺めることができたなら嬉しい。
そう思っただけだったのに、吉羅はひどく素っ気ない態度なので、この話題には無関心そうだ。

軽やかなキータッチの音が静寂に満ちた部屋に漂い、キーボードの上を素早く動き回る吉羅の手指を、香穂子はじっと見つめた。
しなやかな、まっすぐに伸びた美しい指先。
今は真剣に仕事に励む吉羅の整った顔に見入り、やっぱりかっこいいなあ……と胸の裡で呟いた。
ただでさえ仕事に打ち込む男性の姿は二割増しくらいに見えると言うが、吉羅の場合はもっと、それ以上に……


少しの沈黙の後に、吉羅が手を止めてモニタから顔を外した。
「で、スーパームーンがなんだって?」
「いえ、あの……」
少しの間でいいから、一緒に眺めたいと言いたい。
でも、彼は今とても忙しそうだ。
「言いたいことや、したいことがあるのならはっきり言ってくれたまえ。伝えもしない要望を私が察しないからと愚図られたり、拗ねられるのは苦手だ」
きっぱりとそう告げられてしまうと、言い方はきついのだが彼の言い分ももっともだ。

「――とてもお忙しいのはわかってます。でも、今夜は五分間だけ私にください。理事長と一緒に、月を見たいんです。それだけです」
香穂子の顔を見つめる吉羅の視線を感じながら、一気にそれだけをまくし立てた。
「了解した。あと三十分ほどでこの文書作成を終えるから、それまで少し待っていてくれたまえ」
「はい……」

すぐに吉羅はモニタに顔を向け、再度滑らかなキータッチ音を響かせ始める――
その音がなんだかリズミカルで、キーボードを使っての音楽演奏のようにも思えてくる。
吉羅が文章の入力をしている動作は目にも止まらないほど素早くて、彼の頭の中で既に完成している文章が、何もないモニタの空隙を埋めて叩き出されていく様は圧巻だ。
この人は、本当に頭がいいんだな……
そんなことを思いながらも、香穂子の存在など忘れたかのように仕事に熱中している吉羅の姿を見守っている。


――もうすぐ、こんな関係になってから一年。
その間に、数え切れないほどの出来事があった。
最初は、この理事長室に入るのがとても怖かった。
入ろうとしてもなかなか勇気がなくて、ドアの外で立ちつくしていたのを覚えている。
それが、今では彼の要望でコーヒーを淹れるために呼び出され、喜々として応じている。


退屈しのぎに書棚にある本を読みながら、香穂子は吉羅の仕事が一段落つくのを待っていた。
少し待てと告げてから約三十分が経った頃、彼の手が止まった。
「日野君。もういいよ。これでとりあえずの目処はついた」
時刻はもう夜の八時近くになっている。
「少し遅くなってしまったな。送って行こう」


校舎から出ると、吉羅はいつものように駐車場には向かわず、まっすぐに正門の方へと歩いて行く。
「今日は車、乗らないんですか?」

「せっかくの君の誘いなんだからね。たまには歩いて行こうじゃないか。月見の散歩も悪くはない」
香穂子と肩を並べ、ゆったりとした足の運びで歩く吉羅が微笑している。
手を握ることもせず、ただ隣り合って歩く。
「――昨夜が満月だったそうだね。しかし、スーパームーンというのはなんとも無粋な呼び方だと言おうか……」
「昨日の満月と、地球に最接近する今日の月とは一日ズレたそうですね」

ガードレールの内側、道の端に寄ってゆっくりと歩きながら、二人とも互いの顔は見ず、視線は夜空に向かっている。
「わ、すごい……雲が……」
まん丸にしか見えない月を、薄い雲が淡く覆うと、月の周囲にまるで虹のような美しい色彩が縁取るようにして現れた。
「虹のようだな……」
吉羅も立ち止まって、月の周りを流れる雲が行き過ぎる様に見入っていた。


香穂子は、そんな彼の端正な横顔にちらりと視線を移す。
――白銀の月光を浴びている吉羅の姿こそ、なんとも言えずに際立って映える。
「昨日は十五夜だったそうだが、今夜はなんと称するのか知っているかね?」
「いえ。あ、でも……十五の次だから、十六日でしょうか?」
「十六夜と書いて、いざよい……と読むんだ」
「十六夜……きれいな響きですね。今、理事長から教えられて初めて知りました」
「せっかく、日本古来の美しい響きの言葉があるのだから、その呼び方をしたいものだね。無粋な外来語など使っては興醒めだ」
「そうですね……私もそう思います」
香穂子は吉羅に同意をして、彼を見た。


香穂子の家の前まで来て立ち止まった吉羅に「ありがとうございました。……嬉しかったです」と彼女は一礼した。
「今夜の月は、とても綺麗だったね」
香穂子の顔をまじまじと見つめながら、吉羅は意味ありげに笑っている。

何をわかりきったことを、と思いながら香穂子は首を傾げた。
「……わからないか。月が綺麗ですね、という語句で後で検索してみたまえ。では、おやすみ」
「えっ、あの――」
吉羅は片手を軽く振ってみせて、学院の方へと歩いて戻って行った。
その背中が小さくなるまで見ていた香穂子は、早速自室へ戻って着替えると携帯で検索を始めた。


検索した結果、香穂子はびっくり仰天する羽目になった――
それはつまり、一種の遠回しなプロポーズの言葉になるのだ。
しかも発案者は夏目漱石で、英文を婉曲にこう表現する、日本人の奥ゆかしさを表すための、創作なんだというエピソードが綴られていた。

――また、こんな思わせぶりを仕掛けてくる。
博識な彼の言葉に翻弄されて、惑わされて、あれこれと考えさせられて――
それでも、それが心地いい。
「十六夜……か」
香穂子は窓を開けて、暫し美しい月を眺めた。

こうやって、彼と同じ月日を重ねていけたら……
香穂子の胸の中に潜む、密やかな望みだった。

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イラストレーターみたいなもの 自営
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読書。絵を描くこと、文章を書くこと。
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なんだかいろいろと絵や漫画を執筆中。…吉羅理事長勝手ノベライズ+捏造小説他公開中.理事長ゆず風呂漫画3完成して一応完結しましたw





100万人の~をベースに現在の時系列で勝手ノベライズ&完全空想エロありエピソードを書いています。時に微エロ・ハードエロありですのでご注意を!







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