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Since2013.10~「100万人の金色のコルダ」をベースに、吉羅暁彦理事長と日野香穂子の小説を連載していました。現在単発で吉羅理事長楽章ノベライズや勝手に楽譜イベ内容を補完した妄想小説を掲載中。R18小説・HコミックをDLSITEでダウンロード販売中。イラストや漫画も無料掲載中♪一部パスワードあり
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真冬の凍てつく大気がピンと張り詰め、刺すような冷気が襲う。
肺腑の中に降りてくる冷たさが尖った氷の欠片のようで、喉を強く刺激する。
暖気の効いた車の中で、先刻まで私の体を取り巻いていた眠気など雲散霧消させてゆく、突風。
海からの風が、遮蔽物のない突堤に佇む私の体を容赦なく煽る。
強風に揺すぶられて白く泡立つ海面。

夜明けを迎える少し前、曇天が重く垂れ込めて陰鬱な冬の空を青灰色に塗り潰していく。
夜と朝の狭間の僅かな時間。
空と海との境界さえ曖昧な、鈍い色合いに覆い尽くされる。

北から吹き付けてくる風が私の髪を乱す。
少し伸びてきた癖のある髪が、少々鬱陶しいと感じた。
だが、彼女はまだ切らないで欲しいと言うだろうか。

徹夜で完成させねばならなかった書類を仕上げ終え、夜が明けゆく暁の中、車を走らせて家に戻る帰路。
途中で少々眠気が襲ってきたので、目を覚ます意味で車を突堤に停め、波止場へ歩を進めた。

ざわめく風が、うねる波間を吹きぬけてゆく音が、何かの音楽に聞こえる。
――そう、あれはドビュッシーだったか。
波と風との争うような音を表現している作品があったのを思い出した。

いつだったか、彼女が練習に明け暮れ、それでも納得のいく音が出せずに自棄になった風な荒れた音を響かせたことがあった。
そんな荒み軋んだ音を聴くに堪えかねて、私が強引に練習を止めさせた。
気分転換と称して、冬の海辺に彼女を連れ出した。

あの日もやや風が強く、冷たかったのを覚えている。
ろくに言葉も交わすことなく、浜辺から夜の海を眺めた。

――彼女が奏でていた音が荒れていたのが気になり、命令に近い強さで練習にストップをかけた。
「どうしてもうまく弾けない、指が回らない。そういう時もあるものだ。一晩眠れば指の動きが固着して、いい結果が出るかもしれない。……あくまでも可能性だがね。――私は、口先だけの慰めなど言わない。君も、私にそんなことを期待してはいないだろう?」
「……はい」
彼女は私の言葉に納得したようで、頷いた。

その場しのぎの、耳に心地いい慰めなど必要はない。
事実をはっきりと指摘する、それで彼女に区切りがつき前を向けるはずだ。
彼女はそのような心の強さを持ち合わせているはずだ。
それは一種の信頼のようなものだった。
見た目は折れそうに細い彼女の裡には、しなやかで決して折れない芯があるのだと。

多くを話さず、ただ黙って2人で冬の海を見つめていた。
吹き付ける風につれて波濤が揺れて、大きく盛り上がり、やがて砕け散る。
はるかに広がり、砂を拾ってゆく浅い波。
沖からゆっくりと起き上がってくる黒い水の塊を見つめていると、自分がそこに引き込まれそうに感じた。

彼女との沈黙は不快ではなく、静寂のただ中、リズムを刻む波の音を聴くに任せていた。

言葉は時として不要になる。
心拍と波の音とが重なり合う。
水平線の果てから、近付いては去っていく波。
無限とも思えるその繰り返しを見ているうちに、僅かずつだが確実に体熱が奪われていくのを感じた。

私の隣にいる彼女の横顔をちらと窺う。
口数の減った私に合わせてか、彼女も何も話さない。

「――君は今、何を考えている?」
「……理事長が、何を考えているのか。それを思っていました」

「……そうか」
同じことを考えていたのか。
「我々はまるで合わせ鏡のようなものだな。……お互いを限りなく映しあう」
彼女が私を見上げている。
「私は何も考えてなどいないよ。ただ――暗く、静かで、冷たい。この海を見て、君の心が少しでも落ち着けばそれでいい」


寒そうにしていた彼女に直接風が当たらないように、私はそっと彼女との距離を詰めてから、ややあって。
――彼女の方から私に体を寄せてきた。

「あったかい……」
ぽつりと彼女は呟いた。
いつもの高いソプラノの声をやや落としながら、私に話すともなく。

「――人を、風除けにするつもりかね?」
そのつもりで自分から彼女に寄ったくせに、私ときたらいつもの調子で皮肉な言葉を返すしかできなかった……

「冬の空と海の間で、余計なことを考える必要はない。生きている人間は暖かいということが感覚でわかれば、それで充分だ」

彼女の頬の赤みが薄れているのを察し、私は彼女に帰宅を促した。
「もう少しここにいられればいいが、そうもいかない。――時間だ、送って行こう」

風邪をひかせてはいけない。
さまざまな想いが胸を去来するが、私は何も言えなかった。
帰路の車内でのヒーターの温度を上げ、私は彼女に温かいカフェオレを渡した。
FMラジオがかかっていた車内で、やはりあまり話さなかったのを記憶している。

……まるで、昨日の出来事のようにはっきりと覚えている。
彼女と過ごした時の小さな想い出のひとつひとつが、時に私の胸を暖め、時に――切り裂くような痛みをもたらす。

今この場に彼女がいたなら。
私はどうするのだろう。
どうすることもできず、隣でただ立ち尽くしているだけかもしれない。

勇気がなくて。
怯えていて。

――触れることさえも、恐くて。

 

大きな波が弾け、飛沫が飛んできた。
不意に冷たい水を浴びせられて、頬が歪む。
悪天候にならないうちに帰り着かなくては。
遥か東の空はやや白み、夜明けを迎えたのだという気配を伝えてきた。

今は、穏やかな音を聴きたい。

快く眠りを誘う緩やかで繊細な音。

――家に帰り着いて、眠りに落ちる前に聴きたい。
彼女の奏でる、拙いのに暖かく切ない音を。

彼女にメールをするにもチャットアプリを送ろうにも不似合いな時刻だ。
今頃は暖かなベッドで眠っている頃だろう。
彼女が好む、柔らかなピンク色で統一された優しい色合いの部屋で。

願わくは彼女に訪れる眠りが、幸せであるように。
いつでもそう祈っている。
例え君には届かなくとも。

――そう、いつまでも…………


(新春2013通常ノベライズも時間があれば取り掛かるかも、です)
(今回は理事長からの視点ということで第二段階に特化しました。続き希望・よかったと思われたら是非拍手ボタンを一押しお願いします)

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読書。絵を描くこと、文章を書くこと。
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なんだかいろいろと絵や漫画を執筆中。…吉羅理事長勝手ノベライズ+捏造小説他公開中.理事長ゆず風呂漫画3完成して一応完結しましたw





100万人の~をベースに現在の時系列で勝手ノベライズ&完全空想エロありエピソードを書いています。時に微エロ・ハードエロありですのでご注意を!







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