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Since2013.10~「100万人の金色のコルダ」をベースに、吉羅暁彦理事長と日野香穂子の小説を連載していました。現在単発で吉羅理事長楽章ノベライズや勝手に楽譜イベ内容を補完した妄想小説を掲載中。R18小説・HコミックをDLSITEでダウンロード販売中。イラストや漫画も無料掲載中♪一部パスワードあり
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凍てつくような冷たい雨が降りしきっている。
晩秋から初冬にかけての頃には、不意にこんな真冬のような日が訪れてくる。
体の芯の体温までをも奪い去っていくような冷気の中を……姉の墓標目指して歩いて行く。


白い石、これはなんだろうか。

ここに刻まれている墓碑銘は確かに姉のものだ……
だが、幾度見てもこれが現実の事象だなどと思いたくない。
この下に、姉が眠っているだなんて信じられない。
未だに信じたくない、悪夢の中にいるようだとの想いが拭い去れない。
墓標を見てはいても何も心に響いてはこない。
神父が鹿爪らしい顔つきをして、聖書の詞らしいものを何事か呟いている。

――やめてくれ。
誰か嘘だと言ってくれ。
夢ならば覚めて欲しい、誰か僕の体を揺すって起こしてくれ。
空々しい言葉など聞いていたくない。
ここに姉はもういないのに……

これまで抑えていた苦痛と憤りとが蘇りかけてしまいそうになる。
ようやく僕は「現実を見ずに逃げる」といった方策で、この先の自分の進路を決めようとしていたのに。
寒さで傘を持つ手指が痺れるようになってきて、それが極まるとかじかんだ手がこわばり、やがて傘の柄を握る感覚さえも消え失せ、木の柄と手が一体化してしまったようだ。
もう僕は、指先が冷えようが痛もうがどうでもいいんだということを思い出した。
いっそ凍傷を負うとか、手指の神経が切れるとかの損耗で、この手が動かなくなってしまっても構いはしない……

――心でも何も感じなくなれたなら、どんなにか楽だろう。


覚束ない足を引きずるようにして、皆が進むのに合わせて教会の一室へと入った。

これから、茶話会が行われるというのを虚ろな気持ちで聞き流していた。
韜晦の詞があるが、それは僕の耳を素通りしていくばかりだ。
近い親族に囲まれた僕からかなり離れた末席、姉の友人知己のいる辺りに、金澤先輩の姿がちらりと映った。
彼は僕より二学年上の二十歳になるので、飲酒を勧められているようだ。
ああ、彼の傍に行きたい、なんでもない与太話でもいいから金澤先輩と話していたい、できるならこの場を離れてから。
笑いながら会話を交わしているこの場の親族や知人たちに、言いようのない苛立ちを覚えた。

この集まりの名目は、僕の姉が亡くなったのを追悼するはずなのだ。
かと言って嘆きに嘆いて泣いたりされてもどうかとも思うが、趣旨さえ忘れられていないだろうか?
……愚にもつかないお喋りが繰り広げられている。
耳を塞いでしまいたい。
僕はどうして今日、こんなところに来てしまったのかと後悔の念が押し寄せてきた。
独りきりで姉を悼み偲ぶ時間はとうに過ぎたのに――
この騒ぎが鬱陶しくてならない。


憮然とした心持ちでいると、近くにいた僕の叔父が話しかけてきた。
音楽科から、普通科への転科が認められたという報告なのだが、何故それを今この場で言う必要があるんだ?
あんたは校長なんだ、あんたの裁量次第で一発でOKじゃないか。
それをなんだかんだと渋った挙句に、転科を申し出てから半月近くも回答を引き伸ばされてきた。
親族一同が集う満座の席中で僕の意思を確認する叔父の言葉に、どうしようもなく胸が悪くなってきてしまい、僕は席を立ちながら退出する旨を伝えた。

「勿体ない」
「暁彦は本当に、ヴァイオリンを辞めてしまうのか」
そんな声に父や母が説明しているようだが、僕にはもうどうでもいい。

繰り返し、百回は聞かされただろうそんな会話が飛び交う中、僕は振り向きもせずに大人どもから離れていった。

淀んだ空気から一刻も早く逃れたくて、教会の外へと飛び出したが外は雨が降り続けている。
濡れるのも構わずに、僕は喪服のネクタイを緩め、緑に溢れた屋外の清澄な空気を吸い込んだ。

「中抜けか、吉羅?」
不意に差し掛けられた傘のお陰で凍りつきそうな雨の雫が遮られ、穏やかなテノールの響きが僕を引き止めた。

「……金澤先輩……」
彼の姿を間近で認めた途端に、今まで感じていた緊張感や憤懣が一気に解されていくのがわかった。
彼だけは、先輩だけは僕をわかってくれる……そんな想いからだ。
「あれ、ほっといていいのか?」
彼は顎で教会の方を示した。
「いいんですよ」

……仏式の法事でもそうだが、どうして故人を偲ぶはずの場が、どんどんその趣旨を見失うように崩れ、ただの酒宴になり下がるのだろうか。
理解できないし、したくもない。
僕の思うまま吐き散らした言葉に、金澤先輩も同意をしてくれた。

彼は喪服の袖口に寄せた顔をしかめている。
「うっへ、ヤニくせえ。酒の場っつうと、匂いが服に染み付くよな」
「先輩はテノール歌手だから、煙草を嫌って当たり前ですけど。僕もどうも、煙草は体質に合わないみたいですね」

興味から煙草を吸ってみたことを彼に話すと、最初驚きで目を見開いていた先輩が、少しして笑い出した。

「……煙草お?おまえがか?」
僕が煙草に手を出したのがそんなにおかしかったのか訊き返すと、彼はしきりに頷く。
切れ切れに笑っている彼を見て、笑いのめしてくれてよかったと思っていると、肩を叩かれた。

「無理すんなっつったろ?」
「無理じゃありませんよ」
そうは言いつつも、背伸びをしたい意図を見透かされていたか……
今までの僕らしからぬ振る舞いを試してみることで、少しでも憂さを晴らせたらという願望があった。

「……なあ、吉羅」
いつになく真剣な面持ちになった金澤先輩の口から紡がれた言葉は少なからず僕に衝撃を与えた。
「あそこ出てくんなら、俺の下宿に来ねえ?……割とマジで」

この前は酒を酌み交わしながら、その場のノリで冗談半分にしていた会話だが、今回は様子が違った。
僕は咄嗟に何も答えられずに、黙って彼の顔を見つめていた。

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>たかやさん
胃腸風邪流行っていますね、もう大丈夫ですか?
私は風邪は年末罹ってましたが、腰痛がまだまだ続いています (´;ω;`)
yukapi URL 2015/01/13(Tue)21:55:57 編集
プロフィール
HN:
yukapi
性別:
女性
職業:
イラストレーターみたいなもの 自営
趣味:
読書。絵を描くこと、文章を書くこと。
自己紹介:





なんだかいろいろと絵や漫画を執筆中。…吉羅理事長勝手ノベライズ+捏造小説他公開中.理事長ゆず風呂漫画3完成して一応完結しましたw





100万人の~をベースに現在の時系列で勝手ノベライズ&完全空想エロありエピソードを書いています。時に微エロ・ハードエロありですのでご注意を!







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