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Since2013.10~「100万人の金色のコルダ」、漫画金色のコルダ、Vitaのゲームをベースに、吉羅暁彦理事長と日野香穂子の小説を連載しています。現在単発で吉羅理事長楽章ノベライズや、オクターヴの補完テキスト、パロディマンガ無料掲載中。一部パスワードあり
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吉羅が献血車の中に行き、およそ一時間が過ぎた頃。
香穂子は吉羅がもう献血を終えたかどうか、メールをしてみた。
……五分経っても、十分経っても返事は来ない。
さっさと終えてしまって会議とか、別な仕事でもしているのだろうか。
一応献血車の方を見て確認しようと思い、香穂子は正門前の献血車に向かって行った。
呼びかけを続けている職員に話しかける。
「あの、お昼前に来た薄いグレーのスーツ着た男の人……ABの人なんですが、もう終わりましたか?」
「あ、ええ……中でお休みになってますよ」
職員の受け応えがなんだか少し歯切れが悪いのが気になった。
「まだ動いちゃいけないんですか?」
「はあ、そのですね。ちょっと気分が悪くなられたそうで、今横になっていただいています」
「えっ……」

そんなことを聞かされた香穂子は呆然としてしまった。
「……戸口の方で話しているのは……日野君?」
車の奥から吉羅のどこかくぐもったような声がしてきた。
「大丈夫ですか?気分が悪くなったとか……」
「ちょっとね……よく考えれば昼食を摂っていなかった。食事をしてからにすればよかったな。献血車は三時までここに留まるそうだが、それまでには理事長室に戻るから君は気にせずレッスンに行きたまえ」
本当に大丈夫なのか気にかかったが、ここで下手に吉羅に対して必要以上に親しげな様子を見せてはいけないと、自分に言い聞かせた。



それでも香穂子はレッスンに赴き、最初はやや集中を欠いてしまったが、そのうちに香穂子本来ののびのびとした奏法ができるようになった。


レッスンも終わった放課後、夕刻。
途中で吉羅からメールがあって、献血車の撤収とともに理事長室に戻って休んでいるという内容が書かれていた。
ノックをして理事長室に入ると、けだるそうにソファに横になっている彼の姿があった。
「大丈夫ですか?」
「……ああ。ただ、身体がだるいだけだ。参ったな、こんなことになるとは……」
「お昼ご飯はどうされたんですか?」
「あの後金澤さんに適当なものを買ってきてもらったよ。それより、赤十字の職員から詫びだと言って飲み物をやたらと貰ってしまったんだが、君、要らないかね?」
ソファの傍に段ボール箱があり、そこには種々雑多な飲料水が詰め込まれていた。

「今日の献血は盛況だったそうでね。……君が献血なんて真似をしなくてよかった」
「献血なんて、って……」
「コンクールを控えている君は、今すべき事柄ではないよ。どちらの腕にせよ太い針を突き刺されて大穴は空くし、人によっては逆に貧血になったり、私のように気分が悪くなったり、低血圧に陥ることもある。まして君は女性だし、善意を施した代わりに自分の体にダメージを負っては話にならない」
吉羅は不快そうに眉根を寄せながら香穂子を見て話していた。
左腕にまだ止血用の脱脂綿を貼ってあり、いつもはきっちり着ている長袖ワイシャツの袖を肘近くまで捲り上げているのが新鮮だった。
こうして改めて見ると、着痩せして見えるのに割合と筋肉質な腕をしていると思う。


「……もしかして、だけど。……理事長って、注射が嫌いなんですか?」
吉羅は眉間に皺を寄せている。
「……注射が好きだと言う人間はさほど多くはないと思うがね」
「稀にですけど、いますよ。看護婦さんでも、他人に注射するの好きとか言う人いますし」
「この話はよしてくれたまえ。気分がよくないんだ」
どうやら、香穂子の指摘はズバリ的を射ていたのかもしれない。
不貞腐れたように吉羅は香穂子から顔を逸らしてしまった。
そういえば、天羽と話している時にも血液型占いは非科学的で馬鹿馬鹿しいと切り捨てていた。
AB型は偏屈だの二重人格だの、変わり者だのとさんざん言われてきたのかもしれない。

「……帰れますか?大丈夫ですか?」
「ああ。この後金澤さんに私の家まで車を運転してもらうことになっているんだ」
ドアを強くノックされ、吉羅の返答も待たずに勝手に金澤が入ってきた。
「よう、吉羅。調子はどうよ?」
「……快適とは言えませんね」
吉羅が力が抜けたようにぽつりと呟く。
「ったく、どうせおまえのこったから、見栄張って引っ込みつかなくなったんだろ?」
金澤が、さも含みがありそうににやにやと笑いながら吉羅を見下ろしている。
「おお、日野。大丈夫だよ、どうせこいつ注射がいやでぶっ倒れたんだろうから。高校の時もそうだったよなあ?」
「金澤さん」
吉羅が怒った口調で低く声をかけ、険悪な目つきで金澤を咎めた。

「高一ん時も、注射嫌いなくせにかっこつけて、献血車の中でぶっ倒れたんだよな」
金澤を見据える吉羅の瞳に、明らかな憤りが漲っている。
「貧血とかじゃねーから安心しろよ、日野」
金澤の手に頭頂部を撫でられ、思いがけないことをされて香穂子が驚いていると、吉羅の表情が一層険しくなった気がする。
「おまえさんも乗ってくか?ついでに送ってってやるよ」
「でも……いいんですか?」
「構わないよ。どうせついでだ」
「俺の台詞だろっつーの、吉羅。勝手に答えんなよ」


体が動く程度に回復したらしい吉羅と一緒に、彼の車へと向かった。
注射が苦手なら、献血の針は痛いとかすごく太いとか聞くし、さぞ彼にとっては苦痛だったことだろう。
とても笑えない気持ちで、香穂子は後部座席に座った。
いつも彼女の指定席同様だった助手席にいる吉羅を、彼の背後から眺めているというのが少し不思議な気分になる。
「そんな沈んでんなよ、日野。かわいい顔が台無しだぞー?」
香穂子の表情をルームミラーで見たらしい金澤が、からかいの言葉をかけてきた。
「さっきのことといい、今の発言といい、セクハラに抵触しますよ。金澤さん」
「おうおう、おまえこそ日野にセクハラなんざしまくりだろ?」
「ハラスメントではありませんよ。合意があるのならね」
「って、そうなのかよ、日野?」
金澤がこちらに水を向けてきたが、香穂子は一瞬だけ躊躇した後に、小さくうなずいた。


やがて車は香穂子の家の前に停まり、金澤と吉羅にお礼を言って頭を下げた。

金澤に運転を任せきりにするくらいだから、よほど気分が悪くて回復していないのだろうか。
……でも、そこを突くのも吉羅のプライドを刺激してしまいそうに思う。

あえて何も訊かずにいようと香穂子は思っていた。

もうすぐ日付が変わろうとしている夜中に、吉羅からのメールが来たので香穂子は少々驚いた。メールには「さっき入浴も済ませて落ち着いた、君に余計な心配をかけてしまって悪かった。明日はさすがに仕事が休みなので、自宅でゆっくり過ごすことにする。誘えなくてすまない」と記されていた。

明日くらいは一日ゆっくりして体力回復に努めるのかもしれない。
コンクールが翌週に迫ってきたので、香穂子は練習を欠かさないつもりでいた。
「今日はお疲れ様でした。明日くらいは羽を伸ばして、体を休めてくださいね」
いろいろと文面に迷った挙句に、いつにない短文で返してみた。

すると数分後にレスがあり、なんだろうと思いながらメールを開いた。
「明日は君に来てもらって、何か心の安らぐ曲でも演奏してもらいたいところだが、そうなると私の体力回復どころか消耗する結果になってしまう公算大なので、あえて自粛しておこうと思う。コンクールが終わったら、慰労会をしよう。勿論二人きりで」

――どうも、彼は香穂子を自宅に誘いたい様子だったが、香穂子を抱きたい気持ちはあるようでそこを我慢したということらしかった。

二人きりの慰労会と言いながら、おそらく香穂子だけは疲労困憊にさせられてしまう気がする。ときめきと期待が香穂子の胸を弾ませていた。

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「――本日はAB型の血液が不足しております!あと十名分、どうか皆様のお力添えをよろしくお願いいたします」

星奏学院の正門付近に停まった献血車の周囲では、日赤の職員らが拡声器やハンドマイクで
ひっきりなしに献血を呼びかけていた。
試験休み明けの土曜ではあるが、受験生向けの学校公開日であり説明会が開催されていて、平常授業が行われている。
受験生やその保護者、教育関係者らが校内のあちこちを見学してもいい日になっているので、
文化祭などと似たような開放的な賑わいを見せていた。

しかし、在校生の立場としては何かと落ち着かない。
以前吉羅にも言われたが、香穂子やコンクールメンバーの校内セレクションの様子や、香穂子が受賞を果たした学外のコンクールの様子などを収めたPRのDVDが上映されているらしい。

午前中の四コマ授業を終えて、香穂子は昼食は学校で摂った後に居残りで次のコンクール向けのレッスンに励むつもりでいた。
もうあと僅かに迫ったコンクールを控え、試験休み期間もずっと香穂子は自主登校とレッスンを続けていた。

昼食のパンを手にしてふと前庭に出ると、正門付近に献血車が停まっていてそこに献血希望者が並んでいた。
香穂子は自分もしてあげたいと思ったが、今は腕に損傷を負ったり、逆に献血した結果による貧血等で体調を崩す訳にはいかない。
見ていると、献血前の採血で献血に不適格だと言われている女子生徒が何人かいた。
「日野ちゃん!お昼のかわりにお菓子食べにきたの?」
天羽が不意に声をかけてきたが、意味がわからずに香穂子はきょとんとして彼女を見返した。
「えっ、なに?お菓子って?」
「知らないの?あれ見てみなよ」
献血者を呼ぶ人の付近にテーブルが置かれていて、袋菓子やスナック菓子がいっぱいに広げられている。

「献血すると、あれ貰えるんだよ。あと他に飲み物飲み放題?身体に負担かかるから、あとでそれ食べて元気取り戻してねって感じ?」
「へえ、そうだったんだ。知らなかった」
香穂子は感心してうなずくと、天羽は献血車をデジカメで撮影していた。
「でも日野ちゃんは献血なんてするわけにいかないよね。一週間はやっぱり体が本調子じゃなくなるしさ、人によってはこの場で気分悪くなることもあるらしいし」
「天羽ちゃんは?やったことあるの?」
「ん、あるよ。でも今は血が回復するまでやっちゃいけない期間なんだ。一回400ml採血するとね、四ヶ月くらい献血しちゃダメなの」
「へえ~、偉いね。それにさすがは報道部だね」

そこへ、吉羅が講堂で行われていた説明会から戻ってきたらしく、ちょうど香穂子たちが話しているところを通りがかった。
「あ、理事長!説明会終わりですか?」
「ああ、天羽君に日野君。そうだよ、たった今終わったところだ。君たちは何をしているんだね?」
「報道部の取材です」
「――本日は、AB型の血液が不足しております――」
拡声器の声が三人の会話を遮り、学院の外にも聞こえるほど響き渡った。


「あれっ、そういえば」
天羽は吉羅を見てはたと手を叩いた。
「理事長って、確か血液型はABでしたよね?報道部で取材した時そう言ってたような……」
「そうだが、それがどうかしたのかね?血液型占いでもしようとでも?あれは科学的な根拠などないし、あれほど馬鹿馬鹿しいものはないが」
吉羅の顔が不快感を露わにして険しくなっている。
「まったまた。占いなんて。この呼びかけ聞こえませんか、理事長?AB型が不足してるそうですよ」
「……それで?」
吉羅の表情は嫌悪でいっぱいというように歪められている。
ここまで露骨に嫌そうな顔を見せる彼は珍しいと、香穂子も彼の様子を見ていて思った。

「理事長体格いいし、献血してあげたらどうですか?400とか成分献血とか、喜ばれますよ。この前の老人施設に続き星奏学院の理事長が篤志家として、自ら身体を張ってボランティア!」

「――いい加減にしてくれないか、天羽君」
「え、理事長さん?この方がですか?」
日赤の職員らが驚いたように目を見張り、吉羅の方を向く。
「今日はあとどれくらい不足してるんですか?」
天羽の問いかけに職員が返す。

「ABがあと十人分ですね。AB型の方は、日本人のおよそ十人当たりに一人しかおられないので、とても貴重なんです。慢性的に不足している訳でして……」
数人の職員が、哀れっぽいような目ですがるようにして吉羅を見る。
彼は渋面を作ってただそこに立ち尽くしていたが、やがて深い息を吐いた。
「――了解しました。協力しましょう……」
「ありがとうございます!」
途端に職員は喜色満面といったように声を張り上げた。

半ば無理やりのようだが、彼は献血車に乗り込んで行った。
取材をしようとする天羽だが、さすがに中の様子を写真に撮るのはダメだと職員から丁重に断られていた。
あんなに不機嫌そうになっていたのに、吉羅は大丈夫だろうか……
香穂子はそこにいたかったが、献血終了までには小一時間ほどかかるらしいし、自分も空腹なので天羽と一緒に校舎内に戻った。

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派遣社員だけどフルタイム 仕事キツい
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