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Since2013.10~「100万人の金色のコルダ」をベースに、吉羅暁彦理事長と日野香穂子の小説を連載していました。現在単発で吉羅理事長楽章ノベライズや勝手に楽譜イベ内容を補完した妄想小説を掲載中。R18小説・HコミックをDLSITEでダウンロード販売中。イラストや漫画も無料掲載中♪一部パスワードあり
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吉羅理事長様のお誕生日アイテム「ゆず風呂セット」の予告が出ました♪
そんでもって妄想のまま描いてしまったのがシャワー浴びてる理事長様(*´д`*)(*´д`*)ハアハア


最初描いてたら衛藤君ぽくなったと思った…やはり従弟か…なんてのは置いといて!
妄想のまま突っ走ってマンガを描こうと思いました(`・ω・´)シャキーン
中身見もしないで!
というか理事長脱ぐんでしょうね脱がせるんでしょうねえええ!!

脱がせるの待ってられないから私が脱がしたるわあああという意気込みで勢いで描いた!

続きを描いて欲しい方は拍手をくださると、喜んだ作者が後日ちゃんとエアブラシ入れてアップします( ̄ー ̄)ニヤリ


☆今回のクリスマス幻想曲、早々にスチルノートセット(+楽譜とスチルノート、ノマ譜1、ルーペ3メトロノーム3とアップルパイ3で定価千円のところ、17日土曜の14時まで800円)を買って見ましたが課金しただけの満足感を得ることはできました♪(個人の感想です)
これまた後日談ができそうな感じで、にやけてしまいました

拍手[3回]

――放課後、言いつけられた通りに香穂子は理事長室へと出向いた。
吉羅に勉強とヴァイオリンの両方を見てもらうことになっている。
「よく来たね。待っていたよ」
机に寄った香穂子に対し、吉羅が楽譜の束を差し出した。

「さて、ヴァイオリンの練習だがこの楽譜を練習したまえ。この曲を弾きこなすことができれば、音楽科の生徒にも君の力量を納得してもらえるだろう」

「はい、わかりました」
「では、早速ここで弾いてもらえるかな?」
「あ、はあ。今ですか?」

「私は仕事があるので、手元の書類を処理しながら聴くことになるが、演奏にはしっかりと耳を傾けさせてもらうよ」
そう言われて机を見ると、書類が山積みになっている。
香穂子は仕事が忙しそうな吉羅に尋ねた。
「あの、私。もしかして仕事のお邪魔になっていませんか?」
勉強と練習を見てもらうことで、忙しい彼の負担になってはいないだろうか?


そんな想いが香穂子の口から出た。
「日野君、君が気にすることではない。君を一人前のヴァイオリニストに育てるのも私の仕事だ。加えて、星奏学院の理事長として、君の成績を落として落第させるような事態を防ぐのも仕事のうちだ」
「はあ……」
「とにかく、私のことは気にしなくて結構。それよりも、目前のなすべき演奏と学業に集中するのが先決だ。君のスケジュールは組んでおいたから、それに従ってくれたまえ」
「はい、頑張ります」
「さあ、無駄話をしている時間はない。練習を始めよう。因みに明日からは試験勉強も追加するから、そのつもりでいるように。授業中、わからなかった箇所をレポートにまとめて提出したまえ」
「はい、わかりました」

吉羅の言葉にうなずいて、ヴァイオリンの演奏を始めた――



翌日、いつものように授業を受ける。
授業中にわからなかった箇所をレポートにしろと言っていた吉羅の言葉に従って、理解できなかった箇所とわかった箇所を分別する。

理解できなかった部分は、どこが理解できなかったのかと詳しく分析して文章にまとめた。

そして放課後、香穂子は昨日と同じく吉羅の元を訪れた。
「今日の授業で、わからなかった箇所はレポートにしたかな?」
「はい。理事長のお言いつけ通りに、書いてきました」
レポート用紙をまとめたものを彼に差し出した。
「――よろしい。では、私がこれに目を通している間に、君はヴァイオリンの練習をしたまえ」
指示の通りに練習を始めた。

「――そこは、もう少し丁寧に。指使いが追いつかないならテンポを下げればいい。運指は訓練だ、繰り返せば必ずできるようになる」
吉羅のアドバイスに従って、テンポを下げて丁寧に指で音を追う。

「――よろしい。ヴァイオリンの練習は、ひとまずこの辺りで区切りをつけよう」
「はい」
香穂子がヴァイオリンをケースにしまうと、吉羅から次の指示が出た。
「それでは、次はテストの勉強だ。参考書とノートを出したまえ」

香穂子は一番困っている数2の参考書とノートを開いた。
吉羅は、以前理数系が得意だと聞いたことがある。


「まず数学だが。この公式に引っかかっているようだね」
吉羅の指が香穂子のテキストを示した。
「そうなんです。ここから先に進めなくて、困ってて――」
「私がこの公式を証明してみせよう。そうすれば使い方の理解が進むだろう」

吉羅は、香穂子が解けずにいた部分をひとつひとつ丁寧に教えてくれる。
お陰で、何がどうできなかったのか、何故それができるようになるのかまで教えてもらい、どんどん解けていった。
理数系への苦手意識が強い香穂子にとって、吉羅は力強い味方だった。


「……理事長のお陰で、今までわからなくて困っていたところが今日はかなり進みました。ありがとうございます」
香穂子が軽く頭を下げると、吉羅は苦笑していた。
「礼には及ばないよ。そうだな、これに対する報いは、この出題範囲のテストならまず80~90点は取ってもらわないとな」
「そ、そんなには、無理……」
「まあ、一日で詰め込むだけでは無理だね。反復をして、徹底的に覚えこむことだ。それは数学の公式だろうが、ヴァイオリンの弾き方だろうが変わらないよ」

「はい、それはそうですね。……それにしても、理事長は、とても教え方が上手ですね。教師としてもやっていけそうな……」
「それは一日の長があるからね」
「い、いちじつのちょう?って、なんですか?」
香穂子は吉羅の口から出た難解な表現に驚いた。
「まあ、噛み砕いて言えば、年の功というところかな。私は君の先輩に当たるわけでもあるしね。……なに、大した話ではない。学生時代、よく金澤さんの試験勉強を手伝ったんだ」
「え?金澤先生のをですか?……だって、確か理事長より金澤先生のが学年が上ですよね?」

「そう、彼が二学年上になるね。私がここの一年生の時、彼は三年生だった。学年が違うのに、あの人はよく私を頼ってきてね。教え方がわかりやすいと、毎度つきあう羽目になった」
「そうだったんですか」
「今思えば、教え方を鍛えてもらったとも言えるな。……懐かしい話だ」

吉羅は優しい眼差しと微笑を湛え、香穂子を見ている。
彼の胸には、その昔の情景が浮かんでいるのだろうか。
それは現在の香穂子と重なり、二重写しになっているのだろうか……


「――無駄話はここまでにしよう。次の問題は……」

そして、数学のみならず、香穂子へのマンツーマンの補講は終わった。
彼はあらゆる教科での彼女の不足を補ってくれた。

自然と尊敬の念が湧き出てくるし、それが恋愛感情を増幅させるには充分すぎるほど効果的だ。
学院理事長である吉羅が、まるで香穂子の家庭教師さながらに、丁寧に、しかもわかりやすく指導してくれる。
厳しさ一辺倒ではなくて、辛抱強く香穂子が正解へと辿り着くヒントを示しながら、そこへ導いてくれる。
親身になってくれる彼の期待に応えたい。
つきっきりで指導されて、数時間は経過しているところだった。

「これで今日のレッスンは終了だ。明日もまた頑張るように」
「はい、理事長に教えて戴いたのを忘れないように頑張ります」
香穂子は感謝をこめて、吉羅に頭を下げた。
そんな彼女を労わるように優しく、吉羅は声をかけてくれた。
「今日の君は、よくやったと思う。しっかりと休息をとりたまえ」

「――はい!」


(この項一応おわり。が、エロ展開書き途中w)


アメと鞭っすなあwww

最初からこんな感じで優しく接してくれてたら、そもそもコルダ2のように、強権的な独裁者じゃないだろうけど…

あーそれにしてもかほたんがうらやましいいい

では期待されてたちょいエロも書くかwそっちはパスつきで公開する予定です♪

拍手[5回]

ある日、香穂子がいつものように森の広場でヴァイオリンの練習をしていると、普通科の友人が声をかけてきた。

「香穂、頑張ってるね!私、音楽のことは正直よくわからないけど前より素敵になってると思うよ」
褒め言葉に嬉しくなった香穂子は、微笑んで「ありがとう」と返した。

「……でもさ、もうすぐ試験だよ?ヴァイオリンの練習ばかりだと試験勉強が疎かにならないかな?熱心なのはいいことだけどさ。赤点取っちゃったらまずいし、少しヴァイオリンの練習を休んだ方がいいんじゃないのかな?」

言われてみれば、そうかもしれない。
ここのところ弾くのが楽しくてヴァイオリン練習ばかりをしているが、そろそろやりすぎじゃないかとは感じていたのだ。
試験勉強からの逃避を兼ねて、楽しいヴァイオリンに身を入れすぎている。
「うん、そうしようかと思ってる。ここんとこちょっと演奏一辺倒になってた気もするの」
「――でしょ?楽器の演奏もいいけれど、勉強も大事だよ」

そこへ、音楽科の制服を着た男子生徒が通りがかった。

「ちょっと待った!日野さんは音楽祭のメンバーなんだぞ?音楽科の生徒に比べれば、たいしたことのない音色しか出せないんだ。もっとヴァイオリンの技術を研鑽してもらわないと納得がいかない」
男子生徒は憤った様子で一気にまくし立てた。
「大体、試験くらいでヴァイオリン練習を休むなんて、本気で打ち込んでない証拠だ」

「――ちょっと!それはさすがに言いすぎじゃないの?」
友人がムッとして言い返すが、彼も負けてはいない。
「普通科の生徒には、音楽祭の参加資格を奪われた気持ちはわからないよ!日野さんが普通科から選ばれたせいで、出場できる枠は一つ奪われたんだ。これでもし下手な演奏なんかされた日には、僕ら選抜から漏れた音楽科生徒の立場がない」
「だからってそんな、押し付けるようなこと――!」

二人の生徒の間に険悪な空気が漲っていくのを、香穂子はどうやって止めたらいいのか途方に暮れていた。

そこへ、聞き覚えのある低い落ち着いた声がかかる。

「何を言い争っているのかな?」
「吉羅理事長……!」
出し抜けに現れた学院理事長の姿を認めて、音楽科男子の声と表情に驚きが満ちる。
ちょうどいいところで来てくれた吉羅に仲裁に入って欲しい。
香穂子は、事のあらましを吉羅に説明した。

「……なるほど。確かにどちらの言い分にも理はあるな。音楽科の生徒としては、音楽祭の代表者には完璧な演奏を期待するだろう」
「当然ですよ。だったら――」
「けれど、君は自分が音楽祭に参加できない不満を彼女にぶつけていないと言えるだろうか?」
「……うっ……」
吉羅の指摘に、音楽科男子が口ごもる。
どうやら図星だったようだ。
次に吉羅は香穂子の友人の方を向いた。

「そして、君の意見だが、私ももっともだと思う。ヴァイオリンの練習ばかりで勉強がおろそかになるのは望ましいことではない」
「ですよね!だったら――」

「しかし、ヴァイオリンの練習は一日休むと感覚を取り戻すのに三日かかると言われている。毎日のたゆまぬ努力は必要だ。まして日野君は音楽祭の選抜メンバーなのだからね。その自覚があるのなら、なおさら練習をおろそかにはできないだろう」
「そ、それはそうですね……」

「どちらの言い分も正しい。価値観が異なるだけだ。だが、自分の価値観を振りかざして、相手に強要するようなことがあってはならない。個人の価値観は尊重されるべきものだと私は思っているが、……君たちはどうなのかね?」

吉羅の、一分の隙もない論理的な言葉に説得されて、音楽科の男子はうなだれていた。
香穂子の友人も同様に、吉羅に頭を下げた。

「はい……」
「わかりました、すみません」
「結構、双方納得いったようだね。それでは、私はこれで」

吉羅は喧嘩を丸く収めると、その場を去って行った――

翌日、香穂子が廊下を歩いていると、男性教師と話している吉羅を見かけた。
「音楽祭のメンバーは、日野さんから変更した方がいいのではないでしょうか」
「何故、そう思われたのです?」
「昨日、彼女が原因で普通科の生徒と音楽科の生徒が言い争っていたと聞きました」
吉羅は黙っている。
それを仲裁したのは自分だと言わないのは何故だろう。

「それに、日野さんは技術的にも未熟です。かといって練習に打ち込んでいては学業の成績を落としてしまうでしょう。ですから――」
話を続けようとする男性教師を制し、吉羅が口を開いた。
「――わかりました。では、私が責任を持って彼女を成長させましょう」


香穂子は自分の処遇がどうなるのか気がかりで立ち聞きしていたところ、思いっきり吉羅と視線が合ってしまった……

「おや、噂をすればなんとやらだね。日野君、というわけでこれから暫く私が君の面倒を見る。ヴァイオリンも試験勉強も、他の人間に文句を言わせないようにするから、そのつもりでいるように」
「り、理事長が、私を……?」
「――日野さん、理事長がこう仰っているのだから、学業も演奏も頑張るようにね」
男性教師はそう言って職員室の方へと向かった。
香穂子は詳しい話を吉羅に聞きたかったが、もうじき昼休みが終わる頃合だ。

「今は込み入った話をしている暇はない。放課後理事長室に来るように」と言い置かれて、立ち去られてしまった。

突然の急展開に混乱しつつ、反面楽しみでもある。

自分の窮地を鮮やかに救ってくれた吉羅が、なんと勉強と演奏までも指導してくれると言うのだから、期待しないではいられない。

自分を成長させてくれると吉羅は言っていた。
それこそ願ってもない。
吉羅が指導をしてくれるのなら頑張るという気持ちになれる。
香穂子は弾む胸を押さえながら、放課後になるのを待ち受けていた……

(第二段階に続く)

拍手[3回]

――春休みのある日、香穂子が学校で練習した帰りのこと。
すっかり暖かくなってきて、桜が見頃なので近くの神社に立ち寄ると、そこには意外な先客の姿があった。

……理事長の吉羅だ。
物憂げに桜を見あげ、ひとり佇んでいる。
  

少し離れた場所から彼の姿を見ていて、声をかけようかと迷ったが、声をかけない方が不自然だと思い立ち意を決して彼に近寄る。
「……理事長?」

「ああ、日野君。今帰りかね?」
吉羅は香穂子の方を向いた。
「はい、そうです。理事長はこちらで何をなさってたんですか?」
「何をって?……別に何も。この近くを通りかかったら花が見事だったので、暫く眺めていただけだ」
「私も、桜があんまり見事だったから立ち寄ったんです。今は桜が満開で、とてもきれいですね。理事長と同じように、つい見とれてしまいます」
香穂子は桜の花を見あげ、溜息混じりに感嘆の言葉を述べた。

「さて……それはどうかな。同じように桜の花を眺めていても気持ちまで同じとは限らないよ」吉羅は唇の端を皮肉っぽい笑みで歪めた。
何かとても含みのある言い回しと表情に、香穂子はひっかかりを感じた。

「腑に落ちないといった顔をしているね。それでは、君はこの桜を見てどう思う?」
「それは……そうですね。気分が高揚するっていうのかな。そんな感じがします」
香穂子は思うところを素直に口に出した。
春になると一斉に、その暖かさを歓迎するように花開く桜。
思えば入園・入学式の頃にも咲き乱れるその姿は、まさに春の喜びそのもののようだと香穂子は感じている。
祝うべき行事や門出の時に美しい花吹雪が舞う。
それは桜の花からの祝福のようにも感じる……

「なるほど。春は生命力に溢れた季節だ。今を盛りと花をつけた桜はその象徴のようなものだからね。君の年頃なら、この咲きぶりに感化されて、気分が高揚するのもごく自然なことだろう。――かつては、私も春が来るたびに胸の躍る想いがしたものだよ」

香穂子が怪訝そうな表情をしているのを見て、吉羅はフォローの言葉をかけてきた。

「ああ、君のことを馬鹿にしているつもりではないよ。私がとうの昔に失ってしまった感情だと懐かしく思っただけだ」
「それなら、理事長の目にはこの花はどう映っているんですか?」
香穂子は率直に尋ねてみた。
桜の花の美しさを素直には喜べずにいるという彼の心情を知りたい。
さっき、神社に入った香穂子から見ると、桜を見あげる吉羅の表情は憂いを帯びて曇っていた。


「満開になった頃を見計らうように、花を散らす雨が降るだろう。そうでなくても、桜は花を開いたかと思うとあっという間に終わる。……一斉に花を散らすその様は、人生に例えられることもある。花発(ひら)けば風雨多し、人生、別離足る――」
吉羅は視線を桜にやったまま、はらはらと散りゆく花弁を目で追っていた。
「――桜には、はかなさを感じずにはいられない。……花を散らす雨など降らなければいいのだが、そうもいくまいね」

吉羅は、遠い瞳で桜を眺めている……
彼は立派な大人で、誰の目から見ても成功者に映る。
いつも自信に溢れていて、人生に迷うような人間にはとても見えない。
何故、彼は桜を見て感傷的になるのだろうか。
香穂子はそれを不思議に思って首を傾げた。

「君は、今はまだそのままでいい。大人になればわかる時がくるだろう。……ああ、思いの他長居してしまったな。私は失礼するが、君はゆっくりと桜を楽しんでいきたまえ。――それでは」

そう言い置いて、吉羅は立ち去って行った。

……彼は、桜を見て何を考えていたのだろう?
彼は香穂子に言ったように、とても桜の美しさを楽しんでいたようには思えなかった。

……彼の心の裡を知りたい。
何故あんなに切なげな眼差しを桜に向けていたのか。
何か悲しい想い出がまつわっているのだろうか……
彼が残していった言葉や表情の端々から、哀切なものを感じて香穂子の胸が鈍く疼いた。

(第二段階に続く)

拍手[7回]

リリの提案により、吉羅は日頃の香穂子の努力に報いる形で、デートをすることになった。
吉羅が渋々ながらも引き受けてくれたのは、香穂子のレッスンへの集中力や上達ぶりを間近に見て、リリの説得に応じてくれたからだ。


吉羅と待ち合わせをした桟橋に向かう――
真冬の夕方から夜にかけて、暮れてゆく空に輝く街の灯りがとても美しい。
いつも時間よりも前に来ている彼の姿が見えると、香穂子の胸の鼓動は走ってきたからという以上に弾んでいた。

珍しくスーツ姿ではない彼が佇んでいるが、その立ち姿もキマッている。
上は黒に近いダークグレーのウールのジャケットで、見るからに上質そうな布地のものだ。
よく見ると細かく縦に織りの模様が入っている。

その下には淡いグレー地に水色のアーガイル模様が散らされたセーター。
いや、ボタンが見えるのでそれはきっとカーディガンなのだろう。
これまた高価そうな光沢のあるもので、きっとカシミヤじゃないだろうかと思った。
首には、鮮やかな瑠璃色をベースにしたタータンチェックのマフラー。
下は、ジャケットと合わせた黒のシックな細身のパンツだ。

イギリス風でまとめられた、コンサバティブで上品なカジュアルスタイルに香穂子は見入ってしまった。



彼よりも少し遅れて来た香穂子を、彼はやや呆れたような表情をして一瞥した。
「――アルジェント・リリの考えもまったく読めないが、君も大概だ。デートの相手に私を所望などとは、趣味を疑うよ」
自嘲しているのか、それと香穂子を揶揄しているような辛口な言葉が開口一番に浴びせられた。
むしろ自分には過ぎた相手で、高望みだと香穂子は吉羅のことを捉えているのだが、彼にとっては全く違った感慨があるらしい。


「だが、もちろん。学院のために努力を怠らなかった君を労う気持ちは充分にある。……問題は……さて、何をしようか。あいにく高校生を喜ばせる類の趣味を持っていないのでね」
吉羅は遠くを見上げて少し考えていたが、視線を香穂子に下げて微笑んだ。
しかし、それは何かの企みを含んだ毒のある笑みだ。
こういう表情をする吉羅は、おとなげなく香穂子をからかったり、彼女を困らせる発案を思いついた証左なのだ。


「……ああ、あの看板。ちょうどいい。この建物内にあるホールで、今ダンスイベントを行っているらしい」
「ダンスイベント……?」
唐突な提案に驚いた香穂子が目を丸くしていると、吉羅が指差す先の建物に目をやった。
「行ってみるかね?軽い気持ちで参加してみるのもいいだろう」


「か、軽い気持ちって言ったって……」
ダンスといっても種類はなんなのかわからない。
いきなり行けと言われても、しかも踊れというのは困る。
でもこれを否定したら、彼のせっかくのアイディアを無碍にしてしまうのも気が引ける。
「耳ではなく、体感で音楽を楽しむいい機会だ」
香穂子は意を決して、彼の勧めに従うことにした。
「……はい。じゃあ、行ってみます」


「――では、手をとりたまえ。エスコートしよう」
慣れた素振りでスマートに手を差し出す彼の掌を握る。
寒い中にいたのに、彼の掌はほんのりと温かい。
大きな手を握り、香穂子よりもやや先に歩いて行く彼に手を引かれながら華やかなダンス会場へと足を向けた。


会場の中は、飛び入り参加歓迎と書いてある。
ダンスフロアには踊っているカップルだらけで、香穂子はダンス用の華やかな衣装を纏っている男女を目で追っていた。
もちろん、香穂子と吉羅のように、デート最中に興味を惹かれて来たらしいカジュアルな服装の男女も混じっている。

フロアの中央にあるスクリーンでは、音楽に合わせて基本のステップを踏みながら踊る男女の動画が流されている。
「初心者は、あの教則動画を見て、基本のステップを覚えろということのようだね」
「あれは……」
「ウインナワルツだ。動きが大きくて派手に見えるが、実は振り付けやステップ自体はとても基本的なものばかりで種類も少ない」
「はあ……」

スクリーンの下では、上を見ながら踊りを真似している人たちがいた。
「準備運動がてらにあそこのステップを繰り返してみよう。なに、初心者でも簡単にできるものばかりだし、何よりも教則ビデオがあるのだから大丈夫だろう」
吉羅に手を引かれるまま進み、彼と手を握り合ったまま、合図に合わせて身体を動かした。
よく見ると、見本そのままを生で踊っている講師らしき男女がいて、口で数を数えながらくるくると舞い踊っている。
つられて踊りだす人たちもいるので、吉羅と香穂子もそれに倣うことを提案された。


「ちょうどいい、彼らについていくように真似してみよう」
どうすればいいのかと戸惑っていた香穂子だが、背の高い吉羅に引っ張り上げられるような形で体を踊らせた。
というよりも、彼に踊らされているようだった。
遠目からでは一見優雅に見える踊りも、実際に吉羅のリードに任せながら踊ってみると、なかなかに激しい。
目まぐるしく変わるステップや急激なターン等で、慣れないと目が回ってしまいそうだ。
初心者に等しい香穂子のペースに合わせると言ってくれていたが、最初はスローペースだったのだが、徐々にスピードアップしてくると、意外なほど運動量が大きかった。


練習をしているだけで体に汗が滲み、息が切れてくる。
リードする側の吉羅は香穂子を振り回していても、疲れた様子も見せずあくまでも余裕ありげに微笑んでいる。


「……疲れたかね?頬が赤い」
吉羅に指摘されて、香穂子は自分がかなりな運動をこなしたことに気付いた。
「……理事長、もしかするととても上手なんじゃないですか?」
「単純なルーティンの繰り返しだからね。一度憶えてしまえばあとは音楽に乗ってしまうことだよ」
その昔、かなりなヴァイオリン奏者だったと評判が高かった吉羅だからリズム感も優れているのだろう。


いつ、この人につりあう大人になれるのだろう。
近づいたつもりでいても、吉羅に似合う領域にまで到達するのは遥か遠い道のりに思えてくる。

「……そろそろ、帰るとしようか。君のお宅まで送って行こう」




香穂子は吉羅とダンスを楽しんで、帰りはタクシーで家まで送ってもらった。
「……ダンスは楽しめたかね?最後の方は、ずいぶん息が弾んでいたが」
「ええ、楽しめました。……いろいろな動作をなんとか覚えましたし」
「ステップを覚えたようなら結構。こうして社交場に慣れることも、音楽家としての将来には重要だろう。演奏会の終了後のパーティーで、このように踊る機会が巡ってくることもありうる」
「そうですね」
「……それにしても。腕を組む我々は、他の客からどう見えていただろうね」
「……カップル、ですか?」
香穂子が首を傾げながらそう告げた。
それは彼女の抱く願いでもある。
そう見られていたなら嬉しいし、カップルだと思われたかった。
しかし、吉羅が他人からの視線を気にしているとは意外だった。


「カップル?……それはどうかな。あいにく、君と私から醸し出される雰囲気は、まだその域に達していないよ」
「そうでしょうか……」
言下に否定されてしまった香穂子は、残念そうに肩を落とした。
確かに、さっきまでのダンスを振り返ると、あれではダンスの達者な吉羅が香穂子専任の講師役を務めていた、それだけなのかもしれない。
先生役の吉羅と、未熟な生徒の香穂子。
傍から見ればそんなものなのだろう。

吉羅は香穂子を教え導く立場で、彼に指導を受ける立場の香穂子、そういう図式だけは崩れないのだろうか……


「そもそも――君と私がそういう関係であれば、ダンスをしただけで帰しはしない」

優しげな微笑とともに、吉羅からなんとも意味深な言葉が出た。



それってその……
つまりは、その……
それ以降にもあれやこれやが待っているということで……


香穂子は混乱してしまって、たちまち頬が火照り、心臓が激しく脈打っていくのを感じた。
胸を押さえていないと、心臓がせり上がってきて喉から飛び出そうだ。
全身が発熱したかのような熱気を発散させてきたのを自覚すると、ますます動悸が激しくなっていく。

「……ふ、ほんの戯れ言だよ。聞き流して……早く家に入りたまえ」

まだ呆然としている香穂子に、更に吉羅は言葉を重ねた。
「ま、今後の関係は、君の将来性に期待というところかね」

そう言うと、吉羅はタクシーに再び乗り込んだ。
軽く手を振る吉羅の姿を見つめてから、香穂子は門扉に手をかけた。




香穂子はただいまの挨拶もそこそこに自室に入り、ベッドに伏せた。

それってつまり。
恋人同士になるのなら、ダンスが終わったら、きっと……
待ってるのは、こういうことで……
手を握っていた吉羅、香穂子の腕を、肩を抱くようにして踊りを教えてくれた吉羅のぬくもりを思い返すと、心地よさと恥ずかしさで叫びだしそうになる。



ああ、それにしても。
高校生相手になんてことを言ってくれるんだろう……


――いつもいつも、彼の思わせぶりに翻弄される。
冷たさの中に温かさを見出したかと思えば素っ気なく接される。
突き放されたかと思うと、急速に距離を縮めてくる。
今日、彼と踊った時の戸惑いと。
彼にリードされているなら安心だという安堵感との間で、揺れ動く。
彼の肌のぬくもりと体温と。
人を惑わせるような視線と微笑みと、意味ありげな言葉とに動揺させられる。


甘さと切なさと嬉しさが縦横に香穂子の体を駆け巡る。
踊っていた時の浮遊感が今も続いていて、ベッドの上から体が数センチ浮き上がっているような感覚があった。

振り回されているのがわかっているのに、それが快かった。
心地よい疲労と心が浮き立つ幸福感に包まれながら、香穂子は眠りについた……



(一応終わり)
(中盤。ダンスの部分が全くシナリオになかったので、検索しまくってなんとかでっちあげました)

拍手[7回]

――香穂子は、ハロウィンコンサートで演奏する曲を考えていた。
しかし、ハロウィンにちなんだ曲というのはなかなか思いつかない。
コンサートではどんな曲を弾くべきなのだろうか?
ハロウィンコンサートを希望したリリに意見を聞いてみることにした。

妖精像の前に香穂子が立つと、程なくしてリリが姿を現した。
「どうしたのだ、日野香穂子?」
「あのね。リリ、ハロウィンコンサートで弾いて欲しい曲ってどんなのがいいのかなあ?」
「我々は、日野香穂子たちが一生懸命奏でる音楽なら全部嬉しいのだ!だから、お前の好きな曲を演奏してくれればいいぞ」
「そう言われちゃうと、逆に迷っちゃうんだよね……」
困惑した様子の香穂子を眺めたリリが、更に助言をくれた。

「なるほど。では、吉羅暁彦に意見を求めたらどうだ?あいつだってハロウィンコンサートの関係者なのだ。演奏者であるお前の相談には乗ってくれるはずなのだ。それに、なんだかんだ言ってもあいつは音楽についてはよく知っているからな。ハロウィンに相応しい曲はいくらでも思いつくはずなのだ!」
「うん、ありがとうリリ!じゃあ理事長にお話を聞いてみるね」

香穂子はその足で、まっすぐに理事長室へと向かった――

ドアをノックし、中へと入る。
「どうしたんだね、日野君。私に何か用事かな」
「あの、お忙しいとは思いますが、理事長に相談したいことがあって。ハロウィンコンサートで演奏する曲目について、アドバイスが欲しいんです」
香穂子はすがるような思いで吉羅を見上げた。

「……なるほど。どんな曲を弾くべきかわからないのか」
「そうなんです。リリに訊いても、なんでも嬉しいとか言われて。そうすると反対に、迷ってしまって決められなくて」
「そういう時は、違う観点から発想してみるといい。――ハロウィンといえば何を連想するかね?」
「えっ、ハロウィンで連想するもの……かぼちゃのお化けとか。魔女とか、ですか?」
吉羅の問いかけに、イメージできたものを答えた。

「それらに共通するイメージはあるかな?」
「うーん。……恐いもの?」
「『恐いもの』。だったら、恐いイメージのある曲を奏でるのが妥当だろうね。となれば、このCDが参考になるかもしれない」
吉羅は、奥のキャビネットからCDを選んで香穂子に差し出した。

「これは、クラシック音楽でも恐ろしげな雰囲気があるものを集めたCDだ。この中から気に入ったものを演奏するのもいいだろう。暫く貸すから、聴いてみるといい。――勿論、夜に聴くのはお勧めしないがね」
最後の一節を口に出しつつ、吉羅は意地悪そうな笑みを浮かべた。

「眠れなくなって、翌朝赤い目で登校されては教育に携わる者としては立つ瀬がない」
「……あの。それって、なんだか……私が馬鹿にされてるような気がするんですが……」
たかが音楽のCDを聴いたくらいで、夜眠れなくなるとか。
そんな風に決め付けてかかり、香穂子を小馬鹿にしているような吉羅の視線と言葉がひっかかる。

「……馬鹿にしてなどいないよ。君こそ、音楽の持つ力を軽んじてはいけない。このCDを聴くと、音楽で恐怖というものがどこまで表現できるのかがよくわかる。その上、君は演奏者だ。豊かな感受性で、曲の持つイメージをよりはっきりと感じ取れるだろう。……となれば、曲を聴いて恐ろしさに震えるのも、あり得ない話ではないと思うがね」

香穂子は、吉羅に渡されたCDと彼の整った顔とに交互に視線をやった。

「因みに、私の一押しは『カルミナ・ブラーナ』の序奏、『全世界の支配者なる運命の女神』だ。運命に翻弄される人々について、巧みに表現された歌もついている。CDのブックレットにも原文の歌詞が記載されている。気になるようなら図書館で和訳した内容や解釈を調べてみるといい。より深く曲を理解することができるだろうからね」
「……はい。じゃあ、そうしてみたいと思います」

「まあ、私の話はあくまでも参考にすぎない。ハロウィンコンサートの演奏曲は日野君自身が気に入った曲を演奏したまえ。……勿論、君が気に入れば『カルミナ・ブラーナ』の序奏にしてくれても構わないがね」
香穂子は、聴くまでもなく、吉羅が「一押しだ」と勧めてくれたその曲にしようと思っていた。
彼が香穂子を思ってのアドバイスをくれたのだから、せっかくの助言を無碍になどしたくない。
だから、是非ともその曲にしたかった。

「なんにせよ、コンサートで君が素晴らしい演奏を聴かせてくれるのを期待しているよ」
「――はい。精一杯頑張って、理事長のご期待に応えたいと思います。――アドバイス、ありがとうございました。家に帰って、早速お借りしたCDを聴いてみます」

香穂子はお礼を言って頭を下げると、理事長室を後にした。
吉羅が個人的に貸してくれたCD。
これをよく聴き込んで、そして彼の言ってくれたように歌詞の内容も調べてみたい。
彼の勧めに従うことは、即ち彼が示してくれた好意に応えるという意味にもなる。
彼との話題が広がり、より深い話ができるのなら。
自分の好む音楽に香穂子が理解を示したのなら、きっと彼だって嬉しいと思ってくれる……はず。

香穂子は急いで家路につき、自室に入ると早速吉羅から貸してもらったCDに耳を傾けた。
まずは、彼の勧める「カルミナ・ブラーナの序奏」から――

冒頭の重厚な部分を耳にしただけで、すぐにこれはどこかで聴いた覚えがあると思った。
CMとか、テレビ番組や映画音楽等の効果音で使われていたのを思い出した。
――なるほど、これは吉羅が言っていたように、恐怖を表現するのに相応しい音楽だと感じた。
ハロウィンコンサートに弾くのはこれに決めようと直感した。
すると、楽譜を取り寄せなくてはならない。
きっと学校の音楽室に行けばあるはずだから、明日にでも探してコピーさせてもらおう。

それから、図書館で歌詞の内容を調べてみたい。
現代音楽としてはとても著名な曲のようだから、きっと資料は見つかるはずだ。
吉羅が助言してくれたことを取り入れることで、彼の期待に応えたい。
そんな想いが香穂子の胸を弾ませてやまなかった。


(第二段階に続く)



これ…書く側の私が、結構勉強しないとならないなと思いました(´・ω・`)
単純にテキストを書き写すだけで一時間半。間の理事長や香穂子ちゃんの台詞や表情を補完するのに更に一時間。
カルミナ・ブラーナについて調べること…数時間。
ネットで検索すれば出てくるんですが、香穂子ちゃんの乙女の心情としては、安易にネット検索するよりも、吉羅理事長に勧められた通りに図書館で調べ学習したいですよね。
私が香穂子ちゃんならそうする(´・ω・`)


ということで思わぬ労作になってしまいました。
第二段階もノベライズするのに、かなりな時間がかかりそうです…腰が痛い(´・ω・`)

拍手[3回]

吉羅と衛藤とともに、吉羅行きつけのジムへとやって来た――
「さあ、着いたよ。ここだ」
「へえ、結構立派なところじゃん」
吉羅の案内に従って広々とした明るく綺麗な館内を歩くと、衛藤もジムの設備に驚ききょろきょろと辺りを見回している。  
歩いていたり、マシンでのトレーニングに勤しむのは、おそらく吉羅とさして生活ぶりに変わりのなさそうな、多忙なビジネスマンなのだろう。
ここにいる中で最も歳若いのが、衛藤と香穂子なのには間違いがない。

「……っていうか、ビジネスマン風の客ばかり」
普段は物怖じしない衛藤が、あちこちを物珍しそうに眺めながら呟く言葉に吉羅が反応する。「どうした、桐也?気後れしているのかね?」
「別に、そういうわけじゃないけど……」
からかう口調で吉羅に言われた衛藤が、少々ムッとした様子で年上の従兄に反論する。
「なら、堂々としていたまえ。利用者のひとりとして、不自然でないように」
「そりゃ、暁彦さんはいつも通ってるから慣れてるだろうけどさ。ま、いいさ。来たからには満喫させてもらうよ」
「その意気だ。これを機会に度胸をつけるといい」

従兄弟同士の親密な会話が繰り返されて、香穂子は自分が話に入れずにいて、疎外感を覚え始めていた。

「将来君たちは、さまざまなステージに立つことになるだろうからね。ステージが立派だからといって気後れしていては、本来の演奏ができないだろう」
吉羅が香穂子と衛藤の二人に向かって諭すように話し始めた。
確かに、嘗て天才と謳われたヴァイオリニストだった吉羅は何度も大舞台に立ち、コンクールでの優勝経験も多数あるとリリが以前教えてくれた。
その彼の経験からくる言葉には説得力がある。
客層が立派で、施設が立派だからといって、縮こまっていては自分本来の姿でいられない。

「さて、では私は受付を済ませてくるから、暫く待っていたまえ」
吉羅が、慣れた様子でビジターとして参加する衛藤と香穂子の受付手続きを終えて戻ってきた。

「さあ、行こうか。私と日野君はプール、桐也はフィットネスルームでロードバイクだったね。桐也はひとりで大丈夫かな?」
「なに言ってんの、暁彦さん。子供じゃないんだからね、案内も付き添いも要らないよ」
「よろしい。では、後ほど待ち合わせ場所で。何かあったら係員に言付けるように」

衛藤とは別行動を取るようで、香穂子はほっとしてしまった。
この新調した水着は、吉羅のために香穂子が用意したものなので、できれば彼だけに一番に見て欲しいと思っていた。

更衣室に入り、真新しいセパレートの水着に着替えた。
着たあとでおかしなところはないか、ウエストやお腹のスカート部分も大丈夫か何度も鏡の前でチェックした。
胸元を寄せて、少しでも胸が大きく見えたらいいなどと考える。
脈拍が普段の倍近くにまで上がっているようで、運動してもいない今のうちからドキドキが止まらない。

これから吉羅に、水着姿を見られるんだ。
下着とそう変わりのない格好を、初めて彼の目に晒すことになる。
彼はどう思ってくれるだろうか。
それより、彼の肌を見られるのかと思うと、舞い上がりすぎておかしくなりそうなくらいに、気分が高揚している……
体が熱くなって、とりわけ頬が火照っているようで熱感がある。

香穂子がプールサイドに辿り着くと、既に吉羅が待ち受けていた。
香穂子に軽く手を上げる長身の彼に近づくにつれて、心臓が大きく跳ねるようだ。
「着替え終わったようだね。では、軽く体を動かしてから泳ぐとしよう」
浅黒い肌……思った通りに、肩幅が広い。
スーツの似合う体格をしていると常々感じていたけれど、上半身だけでも、無駄な肉など一切ついていない、引き締まった体つきをしていると思う。
腰が高くて、脚が長い……
まるで外国人モデルのようなすらりとした脚線をしていると思って、ついつい見入ってしまった。

吉羅の横に並んで、軽いストレッチを行う彼の真似をする。
恥ずかしさを打ち消す意味合いで、早くプールの中に入ってしまいたい。

水に入って、水中にいる吉羅の姿を目で追って探した。
まずは先日の約束を果たしてもらうことを思いついたので、彼に言わないとならない。
「うん?私のことをじっと見つめているが、どうかしたのかね?」
「あの、泳ぎ方を教えて欲しいんです。効果的ないい方法を教えてくださるって約束しましたよね?」
「ああ。効率よく体力をつける泳ぎ方か。よろしい、私の知っている知識でよければ、君に伝授するよ。来たまえ、まずは君の泳ぎのフォームを確認しよう」

まるで、スイミングスクールのコーチとその生徒のような感じになってしまい、吉羅のマンツーマンの懇切丁寧な指導を受ける。
少しは色気のある雰囲気になるのを僅かに期待していたのに、水泳の指導一辺倒になってきつつあった。
でも、下手に彼を意識し続けていては香穂子自身の体と精神状態が保たなくなる。
クロールや平泳ぎから始めた香穂子の泳ぎ方を吉羅がチェックして、腕の上げ下ろしや、息継ぎなどの方法を教えてくれた。

彼が手本として泳ぐ姿は優雅なのにとてもスピーディで、思わず見惚れてしまうほどだ。
水泳選手にもひけをとらないくらいに、吉羅の泳ぎが熟達しているのが素人目にもわかる。

スポーツマンかもしれないとは思っていたが、バスケでも火原を負かすほど強くて、おまけに水泳までも熟練しているなんて……
これで彼を好きになるな、惹かれるなと言う方が無理だ。
吉羅に抱く尊敬と憧憬の念が彼への恋愛感情を増幅させていく。

「――そろそろ疲れたのではないかね?無理をせず、一度休憩をするといい。体を休めることも重要だ、体力を過信していては水の事故にも繋がるからね。向こうにデッキチェアがある、プールから上がって少し休もう」
吉羅がプールの縁に手をかけて、先に上がった。
彼とともにデッキチェアに腰掛けて、休憩をとることにした。

水という遮蔽物がないこの状態で、上半身は裸の吉羅と接近していることを意識した途端に、一度は落ち着いたはずの胸のざわめきが再び襲ってきた。
広い肩に、厚みのある胸板と、それに続く締まった腹部と……
……その下は、恥ずかしすぎてとても直視できない。
自分たちは今限りなく裸に近いような、それこそ下着同然の姿でいるようなものだと思うと、甘い感情と一緒に動悸がしてくる。
「どうだね、プールでのトレーニングは?」
そう言いながら髪をかき上げる吉羅がちらりとこちらに視線を走らせた。

流し目の端で香穂子を捉えるその仕草に、心が波立つ。
吉羅が腕を上げると、水泳でナチュラルに鍛えられた上腕の筋肉が盛り上がるのがわかる。
彼の何気ない動作や視線にさえも、気持ちの昂ぶりが止まらないほど香穂子の内心は動揺していた。

「あ……はい。とてもいい勉強になりました。体力づくりも演奏には重要なんだなって、理事長に教わったおかげでよくわかりました」
「それは結構。どの演奏家も体力をつけるために努力をしているからね。どうやら、今日君を連れてきたのは無駄ではなかったらしい」
香穂子の真摯な取り組みに満更でもない様子の吉羅に、思い切って次回も教えて欲しいと頼むことにした。

「あの……また、機会があれば、こうして教えていただけますか?」
「そうだな……君の演奏の向上を願う人間としては、無碍にはできない頼みだ。前向きに検討してみても構わないよ」
「ありがとうございます」
「私は、君を一人前のヴァイオリニストへと導く立場の者だ。……君が本当に必要とするなら、力を貸すにやぶさかではない」

まるで国会答弁みたいな婉曲な、持って回った言い方が、いかにも彼らしい。
吉羅がお得意の理屈を重ねて大義名分を探すような言い草をしていても、香穂子の努力を惜しまない姿勢に好感を持ってくれているのは間違いがない。

今日は吉羅に好印象を残せたようで、とても嬉しかった。
願わくば香穂子の体にも、少しでも魅力を感じてくれていたらと祈るような気持ちでもいた。
ここで香穂子の体型に一言でも吉羅が言及したとすれば、それはたちまち立派なセクハラになってしまう。
だから彼が何も言ってくれないのは、そういうことだ……

泳いだ後の心地よい疲労で少し重い体を感じながらも、香穂子の心は浮き立っていた。



(やぶさかではない、までがイベの中身です~)

脚色した香穂子ちゃんの心情部分が、かなり理事長を男として意識してエロっぽくなってしまった…(´・ω・`)

拍手[9回]

休日――
香穂子は自主練習のために学校へやって来た。
正門から入って少し進むと理事長の吉羅の姿が見えたので、香穂子が話しかけようとする前に彼から声をかけてきた。
「うん?そこにいるのは日野君かね?」
「はい、日野です」
「やはりそうか。今日は休日のはずだが……自主練習か」
「えっ、どうしてわかったんですか?」

驚く香穂子の顔を眺めつつ、吉羅が人の悪い笑みを浮かべる。

「驚くことはない。ヴァイオリンケースを見れば誰でもわかるよ」
香穂子はふと吉羅の髪を見上げると、ほんのりと濡れていることに気づいた。
「あの、理事長の髪が湿ってるみたいですけど、シャワーとか浴びられたんですか?」
「ああ、これは違う。ジムに併設されているプールで泳いできたんだ。仕事一辺倒だと運動不足に陥りがちでね、時折、ジムへ汗を流しに行っているんだよ。仕事をするにしても、まず体が第一だ。健康でなくては始まらないからね」
「はあ……いいですね。羨ましいです……」

プールといえば、香穂子は今年はまだ学校の体育の授業でしか泳いでいない。
きっと設備の整ったプールで泳げている吉羅のことが羨ましくなって、ついついそんな言葉が口を突いて出た。
ついでに溜息も。
「――ふむ。そんなに羨ましいのなら、君も泳ぎに行けばいい。ちょうど今日は休日だ、練習後に君を拘束するものはないだろう。近くには市営プールもあるし、流れるプールなどは家族連れにも人気だと聞いたんだが?」
「……あの、違うんです……」

「ん?違うと?君はどういう目的でプールに行きたいと言っているのかね?]
「市営プールじゃなくて、ジムのプールというものに興味があるんです」
「ジムのプールに?……さて、それはどういう意味かな?確かに、市営プールより設備が充実している場所は多いが……」
吉羅は意味深な笑いを湛えながら、面白そうに香穂子の反応を窺っている。
「ただ泳ぐだけなら、どこのプールでも同じことだ。値段もリーズナブルだしね」
話を切り上げようとしているらしい吉羅を、香穂子が慌てて制止した。
「あっ、ちょっと待ってください。話はまだ終わってません」

「まだ私に用が?一体何かな」
「あの、効率よく体力をつける泳ぎ方を教えてくださいませんか?」
「……なるほどね。そうきたか」
吉羅がおかしそうに笑いながら小さく呟いたのを、香穂子は聞き返した。
「――いや、こちらの話だ。気にしないでくれたまえ。確かに、効率よく体力をつけるための泳ぎ方はある。どうせ時間を費やすなら、有意義に使いたいという君の気持ちは理解できるよ。わかった、そういうことならば仕方がない。君を、私の行っているジムのプールへ連れて行ってあげよう」
「あ、ありがとうございます」

「ちょうど、ビジターチケットもまだ手元にあることだしね。将来有望なヴァイオリニストに投資をするのも教育者としての役割だ。加えて言えば次の休日、桐也を連れて行く約束をしている。一人連れて行くのも、二人連れて行くのも同じことだ」

……なんだ、二人っきりで行くんじゃないんだ……
香穂子は衛藤が一緒だと知って、少しばかり落胆する気持ちを抑えられなかった。
「君が望むのなら、桐也と一緒に連れて行くが……どうかな?」
「はい、お願いします」

それでも、これは千載一遇のチャンスには違いない。
香穂子は勢い込んで吉羅の問いかけに即答してしまった。
吉羅が愉快そうに笑っている。
「――わかった。では君も同行するといい」
「ありがとうございます」
そう言って頭を下げる香穂子に吉羅が応じる。

「なに、礼には及ばないよ。先刻も言った通りに、若いヴァイオリニストの手助けも私の仕事のうちだからね。……ついでに、桐也の相手もしてくれると大変ありがたいのだが」
「はあ……」
香穂子は、そんなことを言ってくる吉羅に、もしかして二人きりになるチャンスなど微塵もないのだろうかと不安がもたげてきた。
衛藤が一緒というのも、香穂子とは一対一になる機会などないという牽制のようにも思えてくる。

でも、プールに一緒に行って泳ぎを教えてくれるという吉羅の提案に、期待が高まっていく。
しかも彼の通っているジムのプールなのだから、相当に凄い設備のハイクオリティな施設だろうと容易に予想がつく。

それよりも、吉羅の体を想像してしまうと……
どんな体格をしているんだろうか。
普段から鍛えているのだし、ジムで泳ぐのを日課にしているくらいなのだから、痩せぎすではなくて適度に筋肉もついていそうに思った。
普段は真夏でも学院にいる時には長袖の服を着ている彼の、その服の下……
ついついはしたない想像をしてしまうと頬が火照る。

それから、一番に大事なことがある。
何を着て行こうか、水着はどんなものにしようか?
――いっそのこと水着を新調しちゃおうか。

来週ならまだ時間の猶予はあるし、この夏の新作水着をチェックしに行きたい。
可愛い系のものにしようか、それともセクシー系の……?
でも、あんまり気負って体の線を剥き出しにするのも、露骨な女アピールになってしまって吉羅に退かれたり、苦笑されてしまいそうだ。
華奢な香穂子だが、体を露出する水着姿を吉羅に見せるのは……やっぱり、少し恥ずかしい。
制服の下の素肌を見せる、見られるというのが照れくさい。
とても意識してしまいそうで、今から水着姿になった吉羅と自分とを想像するだけで、鼓動が早まっていく。

あれこれ考えた挙句に、可愛くて適度にセクシー要素もあるセパレートの水着を選んで買ってきた。
悩みに悩んだ末にいろんな店を梯子して、試着を重ねて、納得できる雰囲気のものを選んだ。
こんな乙女のいじらしい気持ち、吉羅は理解してくれるだろうか……

――次の休日。
待ち合わせの駅前に佇む香穂子に、衛藤の元気な声が響いてきた。
「香穂子~!こっちこっち!」
吉羅の車から降りてきた衛藤が、車の方に香穂子を誘導した。
「今日はあんたもジムに行くんだって?暁彦さんから聞いてびっくりしたよ。暁彦さん、俺が頼んだ時も腰が重かったから」
「どうせ動く羽目になるのであれば、二人一度の方が楽なのでね。さて、顔ぶれも揃ったところだし、ジムに向かうとしよう」

一同が吉羅の車に乗り込むと、都心部を目指して出発した――

拍手[9回]

プロフィール
HN:
yukapi
性別:
女性
職業:
イラストレーターみたいなもの 自営
趣味:
読書。絵を描くこと、文章を書くこと。
自己紹介:





なんだかいろいろと絵や漫画を執筆中。…吉羅理事長勝手ノベライズ+捏造小説他公開中.理事長ゆず風呂漫画3完成して一応完結しましたw





100万人の~をベースに現在の時系列で勝手ノベライズ&完全空想エロありエピソードを書いています。時に微エロ・ハードエロありですのでご注意を!







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