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Since2013.10~「100万人の金色のコルダ」、漫画金色のコルダ、Vitaのゲームをベースに、吉羅暁彦理事長と日野香穂子の小説を連載しています。現在単発で吉羅理事長楽章ノベライズや、オクターヴの補完テキスト、パロディマンガ無料掲載中。一部パスワードあり
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香穂子と天羽は、昼休みに校舎内で雑談をしていた。
「そうそう!それで放課後に……」
そこに吉羅が通りすがったので、天羽は驚いて声を高くした。
「あれ?吉羅理事長……?」
天羽が吉羅を眺めて訝しげに声を落とした。
「……なんか、元気なさげじゃない?溜息までついてたような……気のせいかな……」

言われた通りに吉羅を見やると、彼の表情は曇っていた。
いつもなら香穂子に気付くと、吉羅の方から様子を窺う言葉をかけてきてくれるものだが、それもなかった。
と言うよりも、周囲を見渡す余裕などなさげに、気ぜわしそうにさっさとその場を通り抜けていったようだった。

少しだけ心にかかるものを感じながらも、放課後。
香穂子は練習場所を探しに、森の広場を周囲をうろついていたところ金澤の姿を見かけた。
金澤は芝生にしゃがみこみ、猫のウメさんに向かって話しかけている。

「なー、ウメ。少しは相手をしてくれよ。俺を癒してくれるのはお前さんくらいなんだから」
まるで、その気のない女性を口説いている男みたいな台詞だと思い、香穂子はつい苦笑が浮かんだ。
「ニャア」
「そりゃ、仕事を溜め込んでいた俺も悪かったさ。だが、朝から書類、書類、書類じゃあ、さすがの俺も……」
その時、金澤の背後で繁みの揺れる音がした。

驚いた金澤が振り向くと、音の正体は香穂子が接近したのが原因だとわかり、安堵の表情を見せる。
「なんだ、お前さんか。驚かさないでくれや」
「すみませんでした。……金澤先生は、ここで何をしてたんですか?」
「見ての通り、気分転換ってやつさ。なにせ、朝からずっと書類と睨めっこしてたもんだからな。こうして猫のウメと戯れて、息抜きをしてたってわけだ」
「そうだったんですか。お疲れ様です」
「まあ、吉羅の奴に見られたら大目玉食らいそうだがなあ。お前さんは優しいから、もちろん内緒に……」

そこまで言いかけた金澤に、聞き覚えのある低い声が割って入る。
「誰に内緒にして欲しいんですか?」
「なっ?!……き、吉羅。いつの間にそこに……。いつからいたんだよ?」
「つい先ほどですよ。傍を通りかかったら、あなたと日野君とを見かけましたので」
芝生に屈む姿勢をとっていた香穂子と金澤の背後に、吉羅が佇んでいるのに気付いた。
「そ、そうか。俺は、その……。ほんの少し、息抜きをしていただけなんだ」
てっきり吉羅からお小言を食らうか、イヤミの一つ二つでも浴びせられると思った金澤は、言い訳をしつつ身を竦ませる。

「例の書類の方は、必ず今日中に提出する!だから……」
まるで教師から宿題の提出をせっつかれている生徒のように、金澤は吉羅に向かって手を合わせる仕草をした。
「そうですか。頑張ってください。それでは」

「へっ?」
てっきり、金澤は吉羅からきつく叱責を受けるだろうと身構えていたのに、さにあらず、拍子抜けするくらいに何も言われなかった。
吉羅は金澤の言動にほぼ無関心な素振りで踵を返し、その場から去って行った。
「……行っちまったよ。あいつ、どこか調子でも悪いんじゃないか?まさか、説教もせずにあんなにあっさり帰って行くなんて……」

「そういえば、昼休みに理事長を見かけた時も、なんだかすごく元気がないみたいでした」

香穂子の言葉に金澤はうなずく。
「なるほど。そう言えば、あいつ今日はタクシーで学校に来てたな。あんだけ車好きなあいつが、愛車の運転を控えるくらいに調子が悪かったってことか?」

それを聞いた香穂子の方こそが、吉羅を心配するあまりに気分が落ち込んできそうだった。
だとしたら、朝からよほど具合が悪いのをずっと我慢しているんだろうか?
人には体調に気を配れと、事あるごとにくどいほど言ってくるので、自分の体調が優れない時でも、それを堪えて勤務しているんだろうか……?

香穂子の顔色が変わったのを見た金澤が、彼女に提案してきた。
「よし、お前さん、吉羅の様子を見てきてくれや。俺は、これからやらなきゃならん仕事があるからな」
吉羅の親友である金澤が、彼の面倒を見てあげられたらそれが一番いいのに。
それを香穂子だけに任せて自分は仕事だとは。
なんだか心細い気持ちになって、香穂子はついつい金澤を非難がましい目で見上げてしまった。

「おいおい、そんな恨めしそうな目で見なさんなよ。本当に、これから書類を仕上げなきゃいけないんだ。それに、お前さんだって吉羅のことが心配だろう?」
「それはそうですけど……でも……」
もし本当に具合が悪いのなら、金澤に吉羅の自宅まで送って行ってあげて欲しいと思った。
ただ、体調が悪いのかどうかを吉羅と話して確かめなければとも香穂子は考えた。
「まあ、あいつのことだ。うまいコーヒーでも飲めば、元気になるかもしれんが。そんじゃ、任せたぞ~」
金澤は校舎内に戻って書類の仕事の続きをしに行った。

吉羅の様子を探るため、香穂子は理事長室へ向かった。

「失礼します」
ノックの後に、吉羅の「どうぞ」という声が返ってくるのでドアを開く。
「ああ、君か。なんの用かな?」
重厚な椅子に腰掛けている吉羅だが、明らかにいつもと違って表情に精彩がないのがとても気になる。
顔つきだけではなく、声にも覇気が感じられず、調子を崩しているのは間違いなさそうだ。
顔色は悪いとまでは言えないが、どことなく冴えないのは、通常ならば吊り上がり気味な凛とした眉が、困惑したかのように顰められているからだ。
陰鬱そうな憂愁が彼から漂っているのを感じ取り、香穂子はこれはただ事ではないと察した。

「……あの、理事長。唐突ですが、何かお悩みでもあるんじゃないですか?」
「……悩み?私のかね?……特段、悩みなどはないのだが」

1 そのわりに元気がない

2 気付いていないのか?

1の選択後
否定する吉羅に「その割に、元気がなさそうに見えますが」と香穂子は突っ込んだ。
「君の勘違いではないかね?」
驚いて目を瞠る吉羅に、香穂子は尚も畳み掛けた。
「いえ、私だけがそう思ったんじゃありません。さっき、金澤先生も理事長の元気のなさを気にしてました」
「金澤さんもそう言っていたのかね?……ふむ」

2の選択後

否定する吉羅に、「ご自分では気付いてらっしゃらないんですか?」と突っ込んだ。
「話が見えないな。私が、何に気付いていないと言うのだね?」
「ご自分の様子です。いつもと比べて、明らかに覇気がなく見えるんです」
「それは……。君の、気のせいだろう」
一瞬だが、吉羅の返答に間が空いて逡巡が垣間見えた。
切り込んでくる香穂子に対してどう接すべきか当惑したのか、訝しげに香穂子を見つめる。

「まあいい。そこまで食い下がるのなら、正直に答えよう。実は、昨日の帰り道に、追突事故に遭ってね」
「つ、追突事故?え、ええっ!お怪我は?」
香穂子の声が高くなる。
「幸い、私自身はなんともなかったのだが、愛車はそうはいかずに修理に出すことになったという訳だ」
「そうだったんですか……」
「まあ、修理が終われば新品同様になって戻ってくるのだろうが……。それでも、やはり気持ちのいいものではないだろう。自分が大切にしてきたものが、傷ついたというのはね」

ぽつぽつと語ってくれた吉羅の端正な面立ちを憂いと翳りが覆い尽くしていた。
怪我などなかったのが不幸中の幸いだと思ったが、とてもそんな表面上の慰めなど口にできない雰囲気だ。
彼が落ち込んでいる原因が、貰い事故での車の破損とわかったのは収穫だったが。

「……これで納得したかね。では、戻りたまえ」
そう言う吉羅は、やはりどこか生気がない。
だが、言外に「一人にしておいて欲しい」という気配を感じ取って香穂子は理事長室を辞すしかなかった。

吉羅に、元気になって欲しい。
どうすればいいかと思案を巡らせていると、金澤に言われた言葉が頭に浮かんだ。

翌日の放課後――
学校から直行して銀座に出向き、香穂子はコーヒーショップに立ち寄ってコーヒー豆を買っていた。
吉羅に贈りたいので、プレゼント包装ということできれいにラッピングをして貰った。
これで少しでもいつもの調子を取り戻して欲しい。
吉羅は喜んでくれるだろうか……
そんなことを考えながら歩いていると、声がかかった。

「日野君?」
その呼びかけ方は吉羅だと思って、驚いて振り向く。
「やはりそうか。買い物の帰りなのかね?」
香穂子はコーヒーを入れた袋を携えているので、ショッピングだと見抜かれた。
「は、はい。買い物してました。あの、理事長はこちらで何を?」
「私?仕事だよ。すぐそこのビルで打ち合わせがあったのでね」
「それはもう終わったんですか?」
「ああ、終わった。今から帰るところだ。ところで君は何を買いに来たのかね?」
吉羅は優しげな微笑を浮かべて香穂子を見つめている。

ああ、よかった。
笑う余裕が出てきたんだと思って、香穂子は密かに安堵した。

四段階 スチルなし

「あの……理事長に贈る、コーヒー豆を買っていたんです」
「コーヒー豆……私のために?」
「理事長が少しでもお元気になられたら……」
「……落ち込む私を元気付けるために……か。ふむ……。やれやれ、君にそこまで心配をかけてしまったとはね。君に気を遣わせるとは、私もまだまだだな」
歳若い女子高生である香穂子に配慮させた自分の不甲斐なさを嘆く吉羅を見ていると、なんだか落ち着かない気分になる。

プレゼントがあると言ったし、学外で偶然に吉羅に出会えたので香穂子は早速吉羅にコーヒーの包みを差し出した。
「あの、これです。どうぞ」
「……では、このコーヒー豆はありがたく戴くとしよう。お礼は何がいいかな?」
「あのっ。このまま、この銀座でデートしたいですっ」

吉羅に車で連れて来られて銀座に出向く機会は何度もあったが、香穂子自身が電車で小一時間もかけて銀座に来た。
彼が好きだと言っていた大人の街で、彼と待ち合わせてもいないのに偶然に出会えた。
これはもう、運命――?
なんてことを考えつつも、香穂子の胸は期待でワクワクと弾んでいた。
動悸がうるさいくらいに耳まで響き、この目にはもう彼の姿しか映らない。

「……デート?ふむ……。私も教育者である以上、デートと名を冠するわけにはいかないが。我が学院の優秀な演奏者を労うくらいはしてもいいだろう」

吉羅の悪戯っぽい笑みが浮かぶ。
いつも、香穂子をからかい困惑させる時のあれだ。

「私としても、憂鬱な出来事の後に、君の晴れやかな笑顔を見るのは慰めになるからね。……では、ちょうど近くに私の行きつけのカフェがある。2人で、アフタヌーンティーでもいただくとしようか?」

「よ、喜んで!お供させて戴きますっ」
吉羅が何気なく褒めてくれた笑顔を満面に浮かべて、香穂子は大いに喜んだ。


(続きます)

(明日以後、スチルありヴァージョンも書いて出す予定です!よろしければ応援の拍手をお願いします<(_ _)>)

ライターとして仕事を始めたので、仕事無関係の趣味の文章を書くのは久々です…(´・ω・`)

拍手[1回]

ある日、香穂子がいつものように森の広場でヴァイオリンの練習をしていると、普通科の友人が声をかけてきた。

「香穂、頑張ってるね!私、音楽のことは正直よくわからないけど前より素敵になってると思うよ」
褒め言葉に嬉しくなった香穂子は、微笑んで「ありがとう」と返した。

「……でもさ、もうすぐ試験だよ?ヴァイオリンの練習ばかりだと試験勉強が疎かにならないかな?熱心なのはいいことだけどさ。赤点取っちゃったらまずいし、少しヴァイオリンの練習を休んだ方がいいんじゃないのかな?」

言われてみれば、そうかもしれない。
ここのところ弾くのが楽しくてヴァイオリン練習ばかりをしているが、そろそろやりすぎじゃないかとは感じていたのだ。
試験勉強からの逃避を兼ねて、楽しいヴァイオリンに身を入れすぎている。
「うん、そうしようかと思ってる。ここんとこちょっと演奏一辺倒になってた気もするの」
「――でしょ?楽器の演奏もいいけれど、勉強も大事だよ」

そこへ、音楽科の制服を着た男子生徒が通りがかった。

「ちょっと待った!日野さんは音楽祭のメンバーなんだぞ?音楽科の生徒に比べれば、たいしたことのない音色しか出せないんだ。もっとヴァイオリンの技術を研鑽してもらわないと納得がいかない」
男子生徒は憤った様子で一気にまくし立てた。
「大体、試験くらいでヴァイオリン練習を休むなんて、本気で打ち込んでない証拠だ」

「――ちょっと!それはさすがに言いすぎじゃないの?」
友人がムッとして言い返すが、彼も負けてはいない。
「普通科の生徒には、音楽祭の参加資格を奪われた気持ちはわからないよ!日野さんが普通科から選ばれたせいで、出場できる枠は一つ奪われたんだ。これでもし下手な演奏なんかされた日には、僕ら選抜から漏れた音楽科生徒の立場がない」
「だからってそんな、押し付けるようなこと――!」

二人の生徒の間に険悪な空気が漲っていくのを、香穂子はどうやって止めたらいいのか途方に暮れていた。

そこへ、聞き覚えのある低い落ち着いた声がかかる。

「何を言い争っているのかな?」
「吉羅理事長……!」
出し抜けに現れた学院理事長の姿を認めて、音楽科男子の声と表情に驚きが満ちる。
ちょうどいいところで来てくれた吉羅に仲裁に入って欲しい。
香穂子は、事のあらましを吉羅に説明した。

「……なるほど。確かにどちらの言い分にも理はあるな。音楽科の生徒としては、音楽祭の代表者には完璧な演奏を期待するだろう」
「当然ですよ。だったら――」
「けれど、君は自分が音楽祭に参加できない不満を彼女にぶつけていないと言えるだろうか?」
「……うっ……」
吉羅の指摘に、音楽科男子が口ごもる。
どうやら図星だったようだ。
次に吉羅は香穂子の友人の方を向いた。

「そして、君の意見だが、私ももっともだと思う。ヴァイオリンの練習ばかりで勉強がおろそかになるのは望ましいことではない」
「ですよね!だったら――」

「しかし、ヴァイオリンの練習は一日休むと感覚を取り戻すのに三日かかると言われている。毎日のたゆまぬ努力は必要だ。まして日野君は音楽祭の選抜メンバーなのだからね。その自覚があるのなら、なおさら練習をおろそかにはできないだろう」
「そ、それはそうですね……」

「どちらの言い分も正しい。価値観が異なるだけだ。だが、自分の価値観を振りかざして、相手に強要するようなことがあってはならない。個人の価値観は尊重されるべきものだと私は思っているが、……君たちはどうなのかね?」

吉羅の、一分の隙もない論理的な言葉に説得されて、音楽科の男子はうなだれていた。
香穂子の友人も同様に、吉羅に頭を下げた。

「はい……」
「わかりました、すみません」
「結構、双方納得いったようだね。それでは、私はこれで」

吉羅は喧嘩を丸く収めると、その場を去って行った――

翌日、香穂子が廊下を歩いていると、男性教師と話している吉羅を見かけた。
「音楽祭のメンバーは、日野さんから変更した方がいいのではないでしょうか」
「何故、そう思われたのです?」
「昨日、彼女が原因で普通科の生徒と音楽科の生徒が言い争っていたと聞きました」
吉羅は黙っている。
それを仲裁したのは自分だと言わないのは何故だろう。

「それに、日野さんは技術的にも未熟です。かといって練習に打ち込んでいては学業の成績を落としてしまうでしょう。ですから――」
話を続けようとする男性教師を制し、吉羅が口を開いた。
「――わかりました。では、私が責任を持って彼女を成長させましょう」


香穂子は自分の処遇がどうなるのか気がかりで立ち聞きしていたところ、思いっきり吉羅と視線が合ってしまった……

「おや、噂をすればなんとやらだね。日野君、というわけでこれから暫く私が君の面倒を見る。ヴァイオリンも試験勉強も、他の人間に文句を言わせないようにするから、そのつもりでいるように」
「り、理事長が、私を……?」
「――日野さん、理事長がこう仰っているのだから、学業も演奏も頑張るようにね」
男性教師はそう言って職員室の方へと向かった。
香穂子は詳しい話を吉羅に聞きたかったが、もうじき昼休みが終わる頃合だ。

「今は込み入った話をしている暇はない。放課後理事長室に来るように」と言い置かれて、立ち去られてしまった。

突然の急展開に混乱しつつ、反面楽しみでもある。

自分の窮地を鮮やかに救ってくれた吉羅が、なんと勉強と演奏までも指導してくれると言うのだから、期待しないではいられない。

自分を成長させてくれると吉羅は言っていた。
それこそ願ってもない。
吉羅が指導をしてくれるのなら頑張るという気持ちになれる。
香穂子は弾む胸を押さえながら、放課後になるのを待ち受けていた……

(第二段階に続く)

拍手[4回]

――香穂子は、ハロウィンコンサートで演奏する曲を考えていた。
しかし、ハロウィンにちなんだ曲というのはなかなか思いつかない。
コンサートではどんな曲を弾くべきなのだろうか?
ハロウィンコンサートを希望したリリに意見を聞いてみることにした。

妖精像の前に香穂子が立つと、程なくしてリリが姿を現した。
「どうしたのだ、日野香穂子?」
「あのね。リリ、ハロウィンコンサートで弾いて欲しい曲ってどんなのがいいのかなあ?」
「我々は、日野香穂子たちが一生懸命奏でる音楽なら全部嬉しいのだ!だから、お前の好きな曲を演奏してくれればいいぞ」
「そう言われちゃうと、逆に迷っちゃうんだよね……」
困惑した様子の香穂子を眺めたリリが、更に助言をくれた。

「なるほど。では、吉羅暁彦に意見を求めたらどうだ?あいつだってハロウィンコンサートの関係者なのだ。演奏者であるお前の相談には乗ってくれるはずなのだ。それに、なんだかんだ言ってもあいつは音楽についてはよく知っているからな。ハロウィンに相応しい曲はいくらでも思いつくはずなのだ!」
「うん、ありがとうリリ!じゃあ理事長にお話を聞いてみるね」

香穂子はその足で、まっすぐに理事長室へと向かった――

ドアをノックし、中へと入る。
「どうしたんだね、日野君。私に何か用事かな」
「あの、お忙しいとは思いますが、理事長に相談したいことがあって。ハロウィンコンサートで演奏する曲目について、アドバイスが欲しいんです」
香穂子はすがるような思いで吉羅を見上げた。

「……なるほど。どんな曲を弾くべきかわからないのか」
「そうなんです。リリに訊いても、なんでも嬉しいとか言われて。そうすると反対に、迷ってしまって決められなくて」
「そういう時は、違う観点から発想してみるといい。――ハロウィンといえば何を連想するかね?」
「えっ、ハロウィンで連想するもの……かぼちゃのお化けとか。魔女とか、ですか?」
吉羅の問いかけに、イメージできたものを答えた。

「それらに共通するイメージはあるかな?」
「うーん。……恐いもの?」
「『恐いもの』。だったら、恐いイメージのある曲を奏でるのが妥当だろうね。となれば、このCDが参考になるかもしれない」
吉羅は、奥のキャビネットからCDを選んで香穂子に差し出した。

「これは、クラシック音楽でも恐ろしげな雰囲気があるものを集めたCDだ。この中から気に入ったものを演奏するのもいいだろう。暫く貸すから、聴いてみるといい。――勿論、夜に聴くのはお勧めしないがね」
最後の一節を口に出しつつ、吉羅は意地悪そうな笑みを浮かべた。

「眠れなくなって、翌朝赤い目で登校されては教育に携わる者としては立つ瀬がない」
「……あの。それって、なんだか……私が馬鹿にされてるような気がするんですが……」
たかが音楽のCDを聴いたくらいで、夜眠れなくなるとか。
そんな風に決め付けてかかり、香穂子を小馬鹿にしているような吉羅の視線と言葉がひっかかる。

「……馬鹿にしてなどいないよ。君こそ、音楽の持つ力を軽んじてはいけない。このCDを聴くと、音楽で恐怖というものがどこまで表現できるのかがよくわかる。その上、君は演奏者だ。豊かな感受性で、曲の持つイメージをよりはっきりと感じ取れるだろう。……となれば、曲を聴いて恐ろしさに震えるのも、あり得ない話ではないと思うがね」

香穂子は、吉羅に渡されたCDと彼の整った顔とに交互に視線をやった。

「因みに、私の一押しは『カルミナ・ブラーナ』の序奏、『全世界の支配者なる運命の女神』だ。運命に翻弄される人々について、巧みに表現された歌もついている。CDのブックレットにも原文の歌詞が記載されている。気になるようなら図書館で和訳した内容や解釈を調べてみるといい。より深く曲を理解することができるだろうからね」
「……はい。じゃあ、そうしてみたいと思います」

「まあ、私の話はあくまでも参考にすぎない。ハロウィンコンサートの演奏曲は日野君自身が気に入った曲を演奏したまえ。……勿論、君が気に入れば『カルミナ・ブラーナ』の序奏にしてくれても構わないがね」
香穂子は、聴くまでもなく、吉羅が「一押しだ」と勧めてくれたその曲にしようと思っていた。
彼が香穂子を思ってのアドバイスをくれたのだから、せっかくの助言を無碍になどしたくない。
だから、是非ともその曲にしたかった。

「なんにせよ、コンサートで君が素晴らしい演奏を聴かせてくれるのを期待しているよ」
「――はい。精一杯頑張って、理事長のご期待に応えたいと思います。――アドバイス、ありがとうございました。家に帰って、早速お借りしたCDを聴いてみます」

香穂子はお礼を言って頭を下げると、理事長室を後にした。
吉羅が個人的に貸してくれたCD。
これをよく聴き込んで、そして彼の言ってくれたように歌詞の内容も調べてみたい。
彼の勧めに従うことは、即ち彼が示してくれた好意に応えるという意味にもなる。
彼との話題が広がり、より深い話ができるのなら。
自分の好む音楽に香穂子が理解を示したのなら、きっと彼だって嬉しいと思ってくれる……はず。

香穂子は急いで家路につき、自室に入ると早速吉羅から貸してもらったCDに耳を傾けた。
まずは、彼の勧める「カルミナ・ブラーナの序奏」から――

冒頭の重厚な部分を耳にしただけで、すぐにこれはどこかで聴いた覚えがあると思った。
CMとか、テレビ番組や映画音楽等の効果音で使われていたのを思い出した。
――なるほど、これは吉羅が言っていたように、恐怖を表現するのに相応しい音楽だと感じた。
ハロウィンコンサートに弾くのはこれに決めようと直感した。
すると、楽譜を取り寄せなくてはならない。
きっと学校の音楽室に行けばあるはずだから、明日にでも探してコピーさせてもらおう。

それから、図書館で歌詞の内容を調べてみたい。
現代音楽としてはとても著名な曲のようだから、きっと資料は見つかるはずだ。
吉羅が助言してくれたことを取り入れることで、彼の期待に応えたい。
そんな想いが香穂子の胸を弾ませてやまなかった。


(第二段階に続く)



これ…書く側の私が、結構勉強しないとならないなと思いました(´・ω・`)
単純にテキストを書き写すだけで一時間半。間の理事長や香穂子ちゃんの台詞や表情を補完するのに更に一時間。
カルミナ・ブラーナについて調べること…数時間。
ネットで検索すれば出てくるんですが、香穂子ちゃんの乙女の心情としては、安易にネット検索するよりも、吉羅理事長に勧められた通りに図書館で調べ学習したいですよね。
私が香穂子ちゃんならそうする(´・ω・`)


ということで思わぬ労作になってしまいました。
第二段階もノベライズするのに、かなりな時間がかかりそうです…腰が痛い(´・ω・`)

拍手[4回]

プロフィール
HN:
yukapi
性別:
女性
職業:
派遣社員だけどフルタイム 仕事キツい
趣味:
読書。絵を描くこと、文章を書くこと。
自己紹介:






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