桜の時期など過ぎてしまったけれど、私は未だに吉羅理事長に恋しております…
ということで短編投下いたします〜



はらはらと風に舞い落ちる、無数の桜の花びら。
肩口にも爪先にも降り注ぐように、薄い桃色の欠片がゆらめいては足元に蟠る。
「……ああ、もうそんな季節になったのか。時間の経つのは早いものだな。
桜の咲く時期は、近年ではすっかり終業式の頃になってしまったようだが、今年は少し遅くなったようだね。
昔は入学式の頃に、それこそ新入学や新生活を祝福するように咲いたものなんだがね」
そう語ると、日野くんはちょっと困ったような表情で私を見上げる。
やれやれ、これはいわゆるところのジェネレーションギャップというものだろうか。

「そうなんですね。今年はちょうどそんな感じで、素敵だなと思います」


彼女と初めて会った頃、私は悲痛な想いで散り落ちる桜吹雪を眺めていた。
あまりに早く、はかなく命を散らせてしまった姉を、枝から離れ落ちる桜の花弁になぞらえて見ていたものだった。
あの時は雨が降っていた。
意地の悪い雨風が容赦なく桜の花を叩き落とし、なぶるように舞い狂わせて、雨水にまみれさせる。







散った後の惨状を想いながら、やけに感傷的になった自分の横には日野くんがいたのだった。



「さて、私の婚約者殿に希望を訊いておこうか。私の家に移り住むのは、いつ頃からにするのかね？……もっとも、私自身の望みを言わせてもらえば、なる早でお願いしたいところなんだがね」


……まったく、私はいつからこんなに気が急くようになったのだろう？
年若い彼女を束縛するまいと思っているのに、感情はまるで逆を行っている。
早く彼女と一緒に暮らしたい。
結婚という形で毎日傍にいて欲しい。
私の予想外のことばかりをしでかす彼女といれば、きっと毎日が楽しくいられるだろう。
無彩色だった私の生活に彩りを持たせて、変化と刺激と喜びをもたらしてくれるであろう。
そのためには私もかなりな努力を払っているつもりなのだ。


彼女は大きな瞳を瞬かせた。
「や、あの、なる早ですね。……両親とちょっと相談して、あの。だから数日、待ってくれますか？」
「了解した。桜が散り終える前に、頼みたいところだね」


「散り落わるころも、一緒にいたい……です」


ここが学院の敷地内であることを思い、かろうじて彼女を抱きしめたいという衝動をこらえた。



もう哀しさに己の心を蝕まれることもない。
私は前を向いて生きていける。

今年は私生活が充実して、忙しくなりそうだ……。



（いずれ婚約者編に続く）


全然絵と無関係な明るい話になった！でもまあそれも良しとします…w

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