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Since2013.10~「100万人の金色のコルダ」、漫画金色のコルダ、Vitaのゲームをベースに、吉羅暁彦理事長と日野香穂子の小説を連載しています。現在単発で吉羅理事長楽章ノベライズや、オクターヴの補完テキスト、パロディマンガ無料掲載中。一部パスワードあり
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「吉羅さんって、今はもうヴァイオリン弾かないのはわかってますけど、他に楽器とか弾かないんですか?」
唐突な香穂子の問いに、吉羅は即答する。
「今はもう弾くことはないね」
「今は、ってことは昔は違う楽器やってらしたんですか?」
「まあね。クラシック奏者である以上は、まずピアノは基本だろう。君も昔はピアノを弾いていたんだろう?」
香穂子自身は、ピアノはキーを押さえることの難しさにバイエルを投げ出してしまった。

「ええ、根気が続かなくてやめちゃったんですけど。……それで、その……」
言いにくそうにもじもじする香穂子の様子を、吉羅は不審そうに眺めている。
「なんだね?何か言いたいことがあるなら、言ってみたまえ」
察しのいい吉羅には、隠し事などできそうにない。

「あの……一度でいいんです。吉羅さんのピアノ、弾いてくれませんか?」


「…………」
吉羅の表情に険が混じる。
無言でいること自体が、香穂子の不躾な願い事への返答だ。
「……ごめんなさい!冗談です!……けど……」
「タチの悪い冗談はよしてくれたまえ」
彼は冗談とは受け取っていないようだった。


吉羅自身は何も言わないけれど、きっと冗談だと誤魔化したのは香穂子の本心ではなく、本気で彼のピアノ演奏を聴きたかったからだろうと、悟ったに違いない。
ああ、失敗しちゃった……
本当はヴァイオリンの演奏を聴きたいけど、それは夢のまた夢なんだろうな。
香穂子は溜息をついた。


カーステレオのCDから聴こえてくる音楽に耳を傾けていると、どこかでその旋律を耳にした記憶があるような気がする。
「あれ……この曲って……」

ギターが中心のクラシカルなメロディでもあるが、ロック調にアレンジされているようだ。
純粋なクラシックではなく、奏者自身によるかなり癖のあるアレンジが施されているようで、どこまでも遷移しながら続くメロディに圧倒される。
「これ、クラシック……じゃないですよね?でも、ロック?とも言いがたいし……」
「ああ。クラシックの要素の強いロック……いわゆるへヴィメタルの類だね」
「これでメタルなんですか?もっと、始終ギャーギャー喚いてる騒音みたいなのがメタルだと思ってました」
香穂子の言い草に、吉羅はくすりと笑う。


「もっとも、彼の場合は自己主張が強すぎて、ギターを弾いていてもずっと俺様が一番だ、俺様を褒め称えろ!と喚いてるようなものだけどね」
「あ!これ……」
香穂子は、別な曲のギターソロに聴き入ってしまった。
「バッハのG線上のアリアですね。……すごい、ギターだと、こんな風に演奏するんだ……」
甘くせつなげな哀調を帯びたメロディで、先程までのギラギラした印象の強い曲とはまったく構成が違っている。
「気に入ったのかね?」
「ええ……すごいですね。この人の曲、素敵です。もっと聴いていたいなって思います」


「それじゃ、貸してあげるから、よければコピーするといい。もっとも、彼のようにヴァイオリンで弾こうとは思わない方がいいよ。エレキギターだからこそできる技だからね」
「はい。この人の名前、なんて言うんですか?」
「イングヴェイ・マルムスティーン」

「い……いんぐ??聞いたことない響きです。どこの国の人ですか?」
「北欧の、スウェーデン出身だよ。かなりメジャーなギタリストだから、君と同年代でも
知ってる者は多いと思うが。クラシカルなメロディを多く取り入れるロッカーということで、ここ二十年ほどギターの天才として崇められている。ロックの初心者でも、彼の旋律なら比較的聴きやすいと思うよ。クラシックとの親和性が高いからね」


吉羅から借りたCDを自分でダビングし、繰り返し聴いてみた。
今まではヘヴィなロックとは縁の無かった香穂子でも、吉羅の言う通りクラシックの名曲を
アレンジしてある彼の楽曲は、耳に馴染みやすかった。
アルバムに付属しているライナーノーツを読んでも、謝辞としてヨハン・セバスチャン・バッハ、ニコロ・パガニーニ。ヴェートーヴェンなど、クラシックの大家の名が連なっている。

吉羅は、彼の真似はやめた方がいいと言っていたけど、こんな超絶な早弾きをヴァイオリンで似せようだなんて、到底できやしない。
それにしても、彼がこんな風な音楽を好むとは意外だった。
音楽が憎いようなことを言っていても、やはりどこかで憧れを捨てきれないのだろうか。



翌週、香穂子は恒例の週末デートの時に、彼に借りたCDを返却した。
「ありがとうございました!とても気に入ったので、ダビングして何度も聴いちゃいました」
「気に入ってもらえたのなら、私も嬉しい。私も、彼の曲は好きなのでね」
いつも吉羅はどこか斜に構えていて、好ましいものに対しても「悪くない」程度が彼の賛辞なのに、好きだとはっきり言った。
だとすると、よっぽど彼のご贔屓らしいということがわかる。


CDが沢山入っているケースから、別なアルバムを取り出して香穂子に見せる。
「彼のものなら、次はこれがいいと思うよ。世界的に売れに売れたものだし、イングヴェイの名前を知らなくとも、きっとどこかで耳にしたこともあるはずだ。日本のテレビ番組の効果音として使われることも非常に多いからね」

次にかかった曲は、ゆったりとした刻むようなメロディと、力強いが美しいもので、香穂子はそれをとても気に入った。
「これ……すごくいいですね」

「Making Love」

「え?どういう意味ですか?」

「君と愛し合いたい」

言いながら、香穂子の顔を吉羅はじっと見つめる。
意味ありげな視線。

「端的に言うと『おまえを抱きたい』」
目を逸らさずに、見つめられたまま。



香穂子は顔が熱くなって、次に体中に火がついたように火照りを感じてしまった。
「おや。タイトルの意味を教えてあげただけなのに、なぜそんなに真っ赤になっているのかな?」
「知りませんっ……吉羅さんが、からかうから……」
「君はもうちょっと、英語を学んだ方がいいね。まあ、でもこの言い方は俗語だから、受験英語としてはこういう表現は出てこないよ」


いつも、吉羅の思わせぶりな言葉で香穂子は翻弄される。
態度まで、まるで恋人のように振舞われることがあると、つい自惚れてしまいそうになる。
自分が彼を好きな態度は、きっとバレバレに違いない。
一回りも下の小娘をからかう吉羅はとても楽しそうに見えるけど、恋人の好きではないと
思おうとした。


吉羅の内面を教えてくれるのは、香穂子にとっても喜ばしいことだった。
香穂子の知りえなかった世界を教えてくれて、興味が広がっていくように導いてくれる。
年齢が離れているのと、理事長と一高校生という枠ではくくりきれないが、友達以上、恋人未満とでもいうのだろうか。
少しずつ、彼に接近していけるのが嬉しかった。

同じ音楽を聴いている。
たとえそれがクラシックではないにしても、それぞれ思うところは違っても、二人の共通点が増えてゆく。
じんわりと、胸が温かくなる思いが香穂子を包んだ。


昼間、吉羅に教えてもらった歌を繰り返し聴く。
「おまえを抱きたい」
なんて、わざわざ人の目を見つめて言うなんて……
思わせぶりにも程がある。
でも、たとえ冗談でも嬉しくてたまらない、ときめきが止められない自分がいた。



「おーい、パタちゃん!!」
普通科三年の不動翔麻が、香穂子に向かって走り寄ってきた。
「なんですか、翔麻先輩?」
「おまえさあ、今度軽音部のライブあるんだけど、来てくんねぇ?」
「あ、行きたいです!いつやるんですか?」
「来週土曜だな。チャリティライブやる予定なんだよ。基本入場無料だから、友達とかにチケット配ってくれよ、なっ」
と言いつつ翔麻からチケットの束を渡された香穂子は、目を丸くする。
券には『入場無料、お代はお気持ちで』などと大書きしてある。
講堂を借り切るらしい。


「へえー、よくOK出ましたね」
「チャリティだし、それならいいって理事長からも快く認めてくれたんだよ」
そういえば、翔麻は吉羅が好きなアーティストを知っているだろうか?
「翔麻先輩。イングヴェイって人知ってます?」
「へ?おいおいパタちゃん、常識だろそんなの?バッハがクラシックの大御所なら、インギー様はギタリストの王者様だぜ!
何を隠そう、俺、その日インギ様の曲演るんだもんよ。パタちゃんや土浦みてーに、俺様も普通科にも不動翔麻あり!ってとこ見せてやるぜ!じゃ、頼んだぜっ」

言いたいことだけ言うと走り去ってしまった翔麻の後姿を、呆気にとられて見送る。
彼のようにクラシックとはおよそ縁のない人間でも、イングヴェイを知っているのは常識らしい。
香穂子は、とりあえず押し付けられた大量のチケットを配り歩くことにした。




チャリティライブ当日。
幸い好天に恵まれ、小春日和の中、講堂に臨時ステージが作られていた。
曲目はおよその数しか書かれてないが、翔麻たちの裁量でいろいろとやるらしい。
複数のバンドが出演する中で、彼らはトリだった。
吉羅にも一応チケットは渡しておいたが、苦笑しているだけで観に行くとははっきり言われなかった。
星奏学院以外の一般客も入場できるので、ちょっとした文化祭のような賑やかな雰囲気になっている。
「なんかワクワクするよね!」
カメラを構える報道部の天羽、冬海らとともに、香穂子もステージ前に陣取る。

大音量のギターアンプと、マーシャルのスピーカーが設置された舞台に現れたバンドメンバーたちが、次々と演奏してゆく。
どうやら女子に人気のビジュアル系バンドには嬌声が飛び交ったり、耳をつんざくような重苦しいハードなリズムが刻まれた時には、思わず耳を塞ぎそうになった。


一通り盛り上がりを見せたライブは、いよいよ企画者でもある翔麻たちの出番になった。
あちこちから、不動!という掛け声や、いつのまにか翔麻!翔麻!などとコールとともに手拍子が起きる。
「へええ、すごい人気なんだね、翔麻先輩って!」

香穂子たちの近くで、翔麻の兄の葉介がデジタルビデオを構えている。
「あれ、先生は動画撮影役ですか?」
「うん、まあたまにはやんちゃな弟の頼みも聞いてやらないとね。撮っといてくれってさ」


ご丁寧に青いスモークの演出とともに、気取ってギターを回しながら翔麻が入場してくる。
聞き覚えのあるイングヴェイの楽曲が始まると、いつのまにか来ていたらしい吉羅の姿が
ステージ近くにあった。

「あらまあ、理事長までお越しだわ」
天羽が目敏く彼らを発見し、指差した。
吉羅の隣には金澤の姿がある。
ステージの端で、なにやら二人で翔麻たちを指差しながら、楽しそうに会話している。
ああでもない、こうでもないと論評しているのだろうか。
香穂子は、二人のその話こそ聞いてみたいなと思ってしまった。




次の曲に入ろうとするとき、翔麻が相変わらずギター回しを披露する段階で、うまくできずに、肩からギターがすっぽ抜けてしまった。

弾みで、ギターが吉羅の方に投げてよこされた形になる。
吉羅が手にしたギターを渋面で見ていると、なにやら金澤が翔麻に向かって手招きし、マイクをよこせと言っているらしい。
金澤に放り投げられたマイクで、彼が咳払いするとMCを始める。


「えー、本日のスペシャルゲストを紹介。星奏学院理事長、吉羅暁彦!!
曲目は、Yngwie  Malmsteen 、I’ll see the light tonight」

大歓声と、どよめきで場内は騒然となった。
口笛、拍手、足を踏み鳴らす音。
「ちょっと、金澤さん。困りますよ」
「何言ってんだよ、腕は錆び付いちゃいねえだろ?ストラト見たら疼くくせによ」
全部の会話がマイクに拾われている。
金澤の口振りからすると、吉羅はエレキギターを弾けるらしい。


「じゃあ、私にもマイクを。……ご指名に預かったが、ゲストはもう一人、ヴォーカル、金澤紘人」
再度、場内に割れんばかりの拍手と歓声が起こった。
「おい、吉羅!!」
「スペシャルゲストでしょう?」
吉羅は笑いながら金澤を見ると、彼は観念したようにマイクを手にした。


「ちょっとちょっと!日野ちゃん知ってた?どーゆーことなのよ!!」
「吉羅理事長って、ギター弾けたんですか?香穂先輩、ご存知でした?」
「いや、私全然知らないし!なんなのこれ?私もびっくりしてるよっ」

ネクタイを緩め、ジャケットの前を開けると、吉羅は香穂子に向かって一瞥し、微笑んだ。
予想外の出来事に香穂子は呆然とするけれど、期待で胸の鼓動が異様に早い。


吉羅の手によるチューニングの音が鋭く空気を裂くと、黄色い声や「いいぞ理事長ー」などの掛声が飛ぶ。
重厚なイントロのギターソロを流暢に弾きこなす吉羅に、仕方ないかというように、金澤がステージに立ち、ヴォーカルパートを歌う。
途端に、大音響が場内を包み、多くの生徒や教師達は笑いながらや驚きながら、タテノリしたり拳を突き上げたりしている。


香穂子は、ステージの上でギターを弾いている吉羅の姿に釘付けになった。
金澤のヴォーカルも凄いが、まさか吉羅がイングヴェイをコピーできるほどのギターの腕前を持っていたとは。
「ねえ!めっちゃくちゃうまいじゃん、理事長!」
「翔麻先輩よりすごいかもしれないですね!香穂先輩」
こんな彼の姿を見逃したくなくて、香穂子は全身を耳と目にして、彼を追い続けた。

「だめだこりゃ、聴こえてないわ。でもラッキー、大スクープゲット!次の新聞と写真は爆売れよっ」
天羽はカメラでステージの撮影に余念が無い。

ステージを終えた吉羅と金澤に、怒涛のようなアンコールの嵐が巻き起こった。
執拗なアンコールに、吉羅は難色を示しているらしいが、金澤が肩を叩いて説得して一度は応えるらしい。

次の曲は、香穂子を驚かせた。
さっきまでの激しい曲調とがらりと変わり、スローテンポなバラード。
香穂子に教えてくれた「Making Love」だった。
しかも、なんと金澤と一緒に吉羅も歌っている。
どよめきの声が上がり、ひときわ大きな大歓声の渦に飲み込まれる。



ひととおり演奏を終わっても、聴衆の熱狂はなかなかおさまらなかった。
「歯ギター」やら「ギター壊せ」「アンプ壊せ」「ギター破壊と放火しろー」などという声があがり、その度爆笑が広がる。
「さっきから放火とか壊せとか、物騒な野次が飛んでるけど、なんなんですか?」と天羽が葉介に訊く。
「ああ、翔麻がコピーしてたイングヴェイはね、ステージでノルとギター振り回して最後に破壊するんだよね」
「げっ!うん十年前のロッカーもそういうのやってましたね」
「高校の体育館だし、ギターやアンプ壊して放火なんかできるわけないけどね」
「よーし」と、金澤が吉羅からギターを受け取り、上に振り上げるジェスチャーをした。
それを見た翔麻が慌てて止めようとする。
「ちょっと金やん!俺のストラトに!」
「ばーか、やらねーよ」

まるでコントのような掛け合いの間に、吉羅はもうステージを去っていたが、金澤も大きな拍手と歓声の中、彼を追いかけていった。


……その夜、香穂子は興奮のあまり知恵熱を出してしまった。
因みにチャリティとしての収益金は過去最高金額となり、篤志家としての星奏学院理事長の名は上がることだろうと目されている。




数日のちに動画サイトにアップロードされた動画は、僅か数日で数千アクセスを誇る大盛況になったが、「権利者からの申し立て」により、削除された。
多分吉羅の仕業だろうと思われた。


ところが翌日、「星奏学院 報道部」が、再度複製動画をアップし、今度はすぐに一万アクセスを越えてしまった。

「ネットの常識よ。消せば増える、ってね」
もちろん、香穂子は葉介からダビングしてもらった動画をDVDに焼いていた。
それを持っていることは、吉羅に言ったら取り上げられてしまいそうだから、秘密にしておこうと思っている。
今のところ、香穂子の宝物として大切にしまわれている。
そのうち、また権利者=金澤と吉羅により消されてしまうだろうが、当分いたちごっこは終わりそうに無い。


現在、星奏学院の入試情報ページに理事長と金澤の動画をリンクしようという企画が持ち上がったが、吉羅が頑なに拒否しているという。

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>りらさん
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思いっきり趣味に走ってしまった話ですが、最初に拍手コメントがついた懐かしいお話でもあります。
金澤先生と吉羅さんが好きという方からの嬉しいコメントが…
もうそれも一年近く前の話かと思うと感慨深いです。
yukapi 2014/07/11(Fri)18:22:48 編集
プロフィール
HN:
yukapi
性別:
女性
職業:
派遣社員だけどフルタイム 仕事キツい
趣味:
読書。絵を描くこと、文章を書くこと。
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