忍者ブログ
Since2013.10~「100万人の金色のコルダ」、漫画金色のコルダ、Vitaのゲームをベースに、吉羅暁彦理事長と日野香穂子の小説を連載しています。現在単発で吉羅理事長楽章ノベライズや、オクターヴの補完テキスト、パロディマンガ無料掲載中。一部パスワードあり
〓 Admin 〓
<< 02   2024 / 03   1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 31     04 >>
[872]  [863]  [870]  [869]  [868]  [867]  [864]  [866]  [859]  [865]  [855

香穂子と天羽は、昼休みに校舎内で雑談をしていた。
「そうそう!それで放課後に……」
そこに吉羅が通りすがったので、天羽は驚いて声を高くした。
「あれ?吉羅理事長……?」
天羽が吉羅を眺めて訝しげに声を落とした。
「……なんか、元気なさげじゃない?溜息までついてたような……気のせいかな……」

言われた通りに吉羅を見やると、彼の表情は曇っていた。
いつもなら香穂子に気付くと、吉羅の方から様子を窺う言葉をかけてきてくれるものだが、それもなかった。
と言うよりも、周囲を見渡す余裕などなさげに、気ぜわしそうにさっさとその場を通り抜けていったようだった。

少しだけ心にかかるものを感じながらも、放課後。
香穂子は練習場所を探しに、森の広場を周囲をうろついていたところ金澤の姿を見かけた。
金澤は芝生にしゃがみこみ、猫のウメさんに向かって話しかけている。

「なー、ウメ。少しは相手をしてくれよ。俺を癒してくれるのはお前さんくらいなんだから」
まるで、その気のない女性を口説いている男みたいな台詞だと思い、香穂子はつい苦笑が浮かんだ。
「ニャア」
「そりゃ、仕事を溜め込んでいた俺も悪かったさ。だが、朝から書類、書類、書類じゃあ、さすがの俺も……」
その時、金澤の背後で繁みの揺れる音がした。

驚いた金澤が振り向くと、音の正体は香穂子が接近したのが原因だとわかり、安堵の表情を見せる。
「なんだ、お前さんか。驚かさないでくれや」
「すみませんでした。……金澤先生は、ここで何をしてたんですか?」
「見ての通り、気分転換ってやつさ。なにせ、朝からずっと書類と睨めっこしてたもんだからな。こうして猫のウメと戯れて、息抜きをしてたってわけだ」
「そうだったんですか。お疲れ様です」
「まあ、吉羅の奴に見られたら大目玉食らいそうだがなあ。お前さんは優しいから、もちろん内緒に……」

そこまで言いかけた金澤に、聞き覚えのある低い声が割って入る。
「誰に内緒にして欲しいんですか?」
「なっ?!……き、吉羅。いつの間にそこに……。いつからいたんだよ?」
「つい先ほどですよ。傍を通りかかったら、あなたと日野君とを見かけましたので」
芝生に屈む姿勢をとっていた香穂子と金澤の背後に、吉羅が佇んでいるのに気付いた。
「そ、そうか。俺は、その……。ほんの少し、息抜きをしていただけなんだ」
てっきり吉羅からお小言を食らうか、イヤミの一つ二つでも浴びせられると思った金澤は、言い訳をしつつ身を竦ませる。

「例の書類の方は、必ず今日中に提出する!だから……」
まるで教師から宿題の提出をせっつかれている生徒のように、金澤は吉羅に向かって手を合わせる仕草をした。
「そうですか。頑張ってください。それでは」

「へっ?」
てっきり、金澤は吉羅からきつく叱責を受けるだろうと身構えていたのに、さにあらず、拍子抜けするくらいに何も言われなかった。
吉羅は金澤の言動にほぼ無関心な素振りで踵を返し、その場から去って行った。
「……行っちまったよ。あいつ、どこか調子でも悪いんじゃないか?まさか、説教もせずにあんなにあっさり帰って行くなんて……」

「そういえば、昼休みに理事長を見かけた時も、なんだかすごく元気がないみたいでした」

香穂子の言葉に金澤はうなずく。
「なるほど。そう言えば、あいつ今日はタクシーで学校に来てたな。あんだけ車好きなあいつが、愛車の運転を控えるくらいに調子が悪かったってことか?」

それを聞いた香穂子の方こそが、吉羅を心配するあまりに気分が落ち込んできそうだった。
だとしたら、朝からよほど具合が悪いのをずっと我慢しているんだろうか?
人には体調に気を配れと、事あるごとにくどいほど言ってくるので、自分の体調が優れない時でも、それを堪えて勤務しているんだろうか……?

香穂子の顔色が変わったのを見た金澤が、彼女に提案してきた。
「よし、お前さん、吉羅の様子を見てきてくれや。俺は、これからやらなきゃならん仕事があるからな」
吉羅の親友である金澤が、彼の面倒を見てあげられたらそれが一番いいのに。
それを香穂子だけに任せて自分は仕事だとは。
なんだか心細い気持ちになって、香穂子はついつい金澤を非難がましい目で見上げてしまった。

「おいおい、そんな恨めしそうな目で見なさんなよ。本当に、これから書類を仕上げなきゃいけないんだ。それに、お前さんだって吉羅のことが心配だろう?」
「それはそうですけど……でも……」
もし本当に具合が悪いのなら、金澤に吉羅の自宅まで送って行ってあげて欲しいと思った。
ただ、体調が悪いのかどうかを吉羅と話して確かめなければとも香穂子は考えた。
「まあ、あいつのことだ。うまいコーヒーでも飲めば、元気になるかもしれんが。そんじゃ、任せたぞ~」
金澤は校舎内に戻って書類の仕事の続きをしに行った。

吉羅の様子を探るため、香穂子は理事長室へ向かった。

「失礼します」
ノックの後に、吉羅の「どうぞ」という声が返ってくるのでドアを開く。
「ああ、君か。なんの用かな?」
重厚な椅子に腰掛けている吉羅だが、明らかにいつもと違って表情に精彩がないのがとても気になる。
顔つきだけではなく、声にも覇気が感じられず、調子を崩しているのは間違いなさそうだ。
顔色は悪いとまでは言えないが、どことなく冴えないのは、通常ならば吊り上がり気味な凛とした眉が、困惑したかのように顰められているからだ。
陰鬱そうな憂愁が彼から漂っているのを感じ取り、香穂子はこれはただ事ではないと察した。

「……あの、理事長。唐突ですが、何かお悩みでもあるんじゃないですか?」
「……悩み?私のかね?……特段、悩みなどはないのだが」

1 そのわりに元気がない

2 気付いていないのか?

1の選択後
否定する吉羅に「その割に、元気がなさそうに見えますが」と香穂子は突っ込んだ。
「君の勘違いではないかね?」
驚いて目を瞠る吉羅に、香穂子は尚も畳み掛けた。
「いえ、私だけがそう思ったんじゃありません。さっき、金澤先生も理事長の元気のなさを気にしてました」
「金澤さんもそう言っていたのかね?……ふむ」

2の選択後

否定する吉羅に、「ご自分では気付いてらっしゃらないんですか?」と突っ込んだ。
「話が見えないな。私が、何に気付いていないと言うのだね?」
「ご自分の様子です。いつもと比べて、明らかに覇気がなく見えるんです」
「それは……。君の、気のせいだろう」
一瞬だが、吉羅の返答に間が空いて逡巡が垣間見えた。
切り込んでくる香穂子に対してどう接すべきか当惑したのか、訝しげに香穂子を見つめる。

「まあいい。そこまで食い下がるのなら、正直に答えよう。実は、昨日の帰り道に、追突事故に遭ってね」
「つ、追突事故?え、ええっ!お怪我は?」
香穂子の声が高くなる。
「幸い、私自身はなんともなかったのだが、愛車はそうはいかずに修理に出すことになったという訳だ」
「そうだったんですか……」
「まあ、修理が終われば新品同様になって戻ってくるのだろうが……。それでも、やはり気持ちのいいものではないだろう。自分が大切にしてきたものが、傷ついたというのはね」

ぽつぽつと語ってくれた吉羅の端正な面立ちを憂いと翳りが覆い尽くしていた。
怪我などなかったのが不幸中の幸いだと思ったが、とてもそんな表面上の慰めなど口にできない雰囲気だ。
彼が落ち込んでいる原因が、貰い事故での車の破損とわかったのは収穫だったが。

「……これで納得したかね。では、戻りたまえ」
そう言う吉羅は、やはりどこか生気がない。
だが、言外に「一人にしておいて欲しい」という気配を感じ取って香穂子は理事長室を辞すしかなかった。

吉羅に、元気になって欲しい。
どうすればいいかと思案を巡らせていると、金澤に言われた言葉が頭に浮かんだ。

翌日の放課後――
学校から直行して銀座に出向き、香穂子はコーヒーショップに立ち寄ってコーヒー豆を買っていた。
吉羅に贈りたいので、プレゼント包装ということできれいにラッピングをして貰った。
これで少しでもいつもの調子を取り戻して欲しい。
吉羅は喜んでくれるだろうか……
そんなことを考えながら歩いていると、声がかかった。

「日野君?」
その呼びかけ方は吉羅だと思って、驚いて振り向く。
「やはりそうか。買い物の帰りなのかね?」
香穂子はコーヒーを入れた袋を携えているので、ショッピングだと見抜かれた。
「は、はい。買い物してました。あの、理事長はこちらで何を?」
「私?仕事だよ。すぐそこのビルで打ち合わせがあったのでね」
「それはもう終わったんですか?」
「ああ、終わった。今から帰るところだ。ところで君は何を買いに来たのかね?」
吉羅は優しげな微笑を浮かべて香穂子を見つめている。

ああ、よかった。
笑う余裕が出てきたんだと思って、香穂子は密かに安堵した。

四段階 スチルなし

「あの……理事長に贈る、コーヒー豆を買っていたんです」
「コーヒー豆……私のために?」
「理事長が少しでもお元気になられたら……」
「……落ち込む私を元気付けるために……か。ふむ……。やれやれ、君にそこまで心配をかけてしまったとはね。君に気を遣わせるとは、私もまだまだだな」
歳若い女子高生である香穂子に配慮させた自分の不甲斐なさを嘆く吉羅を見ていると、なんだか落ち着かない気分になる。

プレゼントがあると言ったし、学外で偶然に吉羅に出会えたので香穂子は早速吉羅にコーヒーの包みを差し出した。
「あの、これです。どうぞ」
「……では、このコーヒー豆はありがたく戴くとしよう。お礼は何がいいかな?」
「あのっ。このまま、この銀座でデートしたいですっ」

吉羅に車で連れて来られて銀座に出向く機会は何度もあったが、香穂子自身が電車で小一時間もかけて銀座に来た。
彼が好きだと言っていた大人の街で、彼と待ち合わせてもいないのに偶然に出会えた。
これはもう、運命――?
なんてことを考えつつも、香穂子の胸は期待でワクワクと弾んでいた。
動悸がうるさいくらいに耳まで響き、この目にはもう彼の姿しか映らない。

「……デート?ふむ……。私も教育者である以上、デートと名を冠するわけにはいかないが。我が学院の優秀な演奏者を労うくらいはしてもいいだろう」

吉羅の悪戯っぽい笑みが浮かぶ。
いつも、香穂子をからかい困惑させる時のあれだ。

「私としても、憂鬱な出来事の後に、君の晴れやかな笑顔を見るのは慰めになるからね。……では、ちょうど近くに私の行きつけのカフェがある。2人で、アフタヌーンティーでもいただくとしようか?」

「よ、喜んで!お供させて戴きますっ」
吉羅が何気なく褒めてくれた笑顔を満面に浮かべて、香穂子は大いに喜んだ。


(続きます)

(明日以後、スチルありヴァージョンも書いて出す予定です!よろしければ応援の拍手をお願いします<(_ _)>)

ライターとして仕事を始めたので、仕事無関係の趣味の文章を書くのは久々です…(´・ω・`)

拍手[1回]

PR
この記事にコメントする
お名前
タイトル
文字色
メールアドレス
URL
コメント
パスワード   Vodafone絵文字 i-mode絵文字 Ezweb絵文字
secret (管理人しか読むことができません)
プロフィール
HN:
yukapi
性別:
女性
職業:
派遣社員だけどフルタイム 仕事キツい
趣味:
読書。絵を描くこと、文章を書くこと。
自己紹介:






最新コメント
ブログ内検索
カレンダー
02 2024/03 04
S M T W T F S
1 2
3 4 5 6 7 8 9
10 11 12 13 14 15 16
17 18 19 20 21 22 23
24 25 26 27 28 29 30
31
P R
バーコード
Copyright(c) 吉羅暁彦理事長×日野香穂子 SS小説・漫画イラスト置き場 All Rights Reserved.* Powered by NinjaBlog
* photo by 空色地図 * material by egg*station *Template by tsukika
忍者ブログ [PR]