Since2013.10~「100万人の金色のコルダ」、漫画金色のコルダ、Vitaのゲームをベースに、吉羅暁彦理事長と日野香穂子の小説を連載しています。現在単発で吉羅理事長楽章ノベライズや、オクターヴの補完テキスト、パロディマンガ無料掲載中。一部パスワードあり
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――ある朝、気がつくと私は何故か金澤さんの家にいた。
久々に街中で痛飲し、酔い潰れかけた彼を彼の自宅にタクシーで送ったところまでは覚えている。
彼の部屋に行き、そのまま寝入ろうとしたのを止めてシャワーだけは浴びるように言い、そして帰ろうとしたのだが。
シャワーから出た後に気分が悪くなったと言い出した彼に付き添っていた。
それも覚えている。
だがしかし、その後の記憶が途絶している。
私はそれほど飲んだわけでもないのに、一体どうした訳なのか――
思い出そうとすると頭痛がしてきた。
悪酔いの果てに記憶が途絶えるだなんてことは、学生時代に悪い遊びを覚え始めた頃以来な気がする。
ふと脇を見ると、そこに信じがたい光景があった。
私の隣に、――他ならぬ私自身が横たわって大の字になって寝ているのを発見したのだ。
さすがの私も思考が停止してしまった。
ここで思い至る一番の理由は、これが夢だということだ。
それならば納得できる。
夢ならばどんなに馬鹿げたことでも、不条理な出来事が生じても、夢だからの一言で全てが成立してしまうからだ。
まさかと思って浴室脇の鏡を見ると、……私は彼、金澤紘人の姿になっているではないか。
これが悪夢以外の何物なのだと言うのだ。
今日は月曜日、それぞれに星奏学院での仕事が待ち受けている。
それなのにこの有様では、どうすればいいのか。
「あーあ……よく寝た~」
……ベッドでは、私の姿をした金澤さんが、私の声で暢気な言葉を発していた。
ちょっと……そこで、Tシャツに手を突っ込まないでくれないか。
……あまつさえ、下着に手を入れてその中を、尻を掻くなと……
己のあまりにも情けない姿を見ていて、忸怩たる思いにかられた。
「あー、あー。なんか俺、声変だな。まるで吉羅の声みたいになっちまってるぞ」
喉元を押さえている彼、つまりは私の姿をした金澤さんが起き上がってこちらを見た。
「おわっ、なんだよ。俺、昨日は相当酔ったのかな。なんで鏡の前で寝てたんだよ?」
しかし彼は、相変わらず喉を押さえている。
「声が、喉の調子がおかしいし。第一、これ……鏡じゃねえよな?」
「おはようございます。金澤さん」
私は彼、金澤さんの声で相当に間の抜けた朝の挨拶をした。
Tシャツにトランクスという姿でいるのが嫌で、早く着替えたい。
「はあ?俺が喋ってやがる。やっべえなあ、昨日の酒がまだ抜けてねえのかな」
「――頼むから、私の姿でその乱暴な口調はやめてもらえませんか。人格が疑われる」
私の言葉がまだ飲み込めていないようで、彼は呆然としている様子だった。
ここからが大変だった。
どうやらお互いの中身が入れ替わってしまったことを説明し、おそらくアルジェント・リリの悪ふざけに違いないという結論に達するまで約五分以上かかった。
「わかったよ。言葉はなるべく改めるように努力はする。けど、おまえも俺なんだから、ちょっとは俺らしくしないと生徒に怪しまれるぞ」
「精神的に不安定だとか、酔いが回っただけだと言えば、後日なんとでも修正は効くでしょう。それより、今日は金澤さんは授業は何コマ入っていますか?」
「午前に一コマ、午後に二コマだよ。最後はうちのクラス、3のAだ」
「それよりも……今日は夕方から、理事会とPTA幹部との会食があるんです」
「ああ、例の豚みてえな香水ババアが来るのかよ。お気の毒さまだよなあ」
「何を言っているんです。その相手をするのが、あなたなんですよ。私の姿をしている金澤さんの役割なんですよ、お間違えなく」
一瞬彼が黙った後に「はあ?!」と大声で素っ頓狂な声をあげた。
「うわっ、勘弁してくれよおい、おまえあれだろ、体触られたりしたんだろ?あんなババア、今度は何すっかわかんねえぞ。俺のチン×でも触ろうとしようもんなら、温厚な俺もさすがに――」
「……だから、私の人格が疑われるような下劣な言葉を口に出すのは、よしてくれませんか」
下品な言葉を喋っている自分の姿が、本当だとは思いたくない……
「何言ってやがる、すかしやがって。おまえみてーなムッツリした野郎に限って中身はドスケベって相場が決まってんだよなあ。日野にそのお下品な言葉でも言わせてんじゃねえのかよ?」
「――いい加減にしてくれませんか。それから、着替えはどこですか?あなたもそろそろ着替えないとですね……」
「おお、怖っ。けど、俺の顔でんなこと言われても説得力ねえなあ、我ながら」
幸い身長は同じだが、金澤さんはカジュアルな服装しかないに等しい。
彼はスーツを着ていくべきなのだが、これはラフな服で行かせて、理事長室に置いてある予備のスーツに着替えてもらうしかない。
最初は私の部屋に寄ってからにしてもらおうと思っていたが、時間もない。
仕方がないのでタクシーで星奏学院まで出向いて行く。
もちろん彼……私の姿をした金澤さんも一緒だ。
今日は午後まではアポイントもないのだが、問題は夕方以降だ。
金澤さんの暴走を抑制するために、特別措置と称して食事会について行こうかと思うが、それを彼の口から説明させねばならない。
さっさと理事長室まで出向き、二人で中まで入った。
カジュアルウェアで歩いている私を、早朝練習で登校している生徒たちに、不審そうな目でじろじろと見られてしまった。
「さあ、早いところスーツに着替えてください。そんな格好でいたのを、生徒に見咎められてしまった」
最初はデニムパンツで登校しようとしていた彼だが、あいにく彼と私のサイズは違うのでそれは阻止できた。
そのかわりにサイズが微妙に異なっても大丈夫なチノパンを穿かせたが、それでも理事長としての私は、もはやスーツ姿が仕事着と化しているので、スーツでない服装でいること自体に違和感がある。
「ゼニアかよ。相変わらず気取ってやがるなあ、おまえさん」
ワイシャツを羽織った後でスーツを着用する彼……私の姿を見ていると、実に奇妙な気分にさせられていた。
「おーおー、ネクタイまでゼニアか。こいつ一本でそこらの吊るしのスーツが買えるんだよなあ。この金満男が」
無礼なことを言う彼をじろりと横目で一瞥する……が、私の姿の彼は少しも堪えていない様子だ。
「いいですか、午前中は寝ていて英気を養ってくれていても構いませんが。来客には応えなくていいし、電話にも出ないでください。とにかく、夕方の例の会食までは何もしないように」
「おっ、ラッキー!そんじゃあ俺は、おっしゃる通りに心ゆくまで休息に宛てさせてもらうわ」
彼は私がいつも座っている革製の椅子に腰掛け、満足そうにその上で体を揺すっている。
「すっげえ座り心地いいのな、この社長椅子。んで、ここでおまえ気取って『日野君。コーヒーを一杯頼むよ』なんつってんのかよ」
「金澤さん。一コマ目なんですが、音楽鑑賞ですよね?」
「ああ、そいつは楽でいいぞ。DVD見せて、適当に感想文書かせて回収して終わりだからな」
「そのDVDはどこにあるんです?」
「音楽準備室のとこに置いてあるよ。白いケースに入ってるやつ二枚な」
「準備室の、白いケースですね」
早いところ、クラスに出向いてSHRをこなさなければ。
慌しくしているところに、不意に甲高い笑い声が響いた。
「吉羅暁彦に、金澤紘人。おまえたちにトクベツな一日をプレゼントしてやったぞ!」
「……アルジェント。やっぱりおまえの仕業か。さっさと元に戻せ」
「おっ?おお?そんな不遜な態度でいいのかな、吉羅暁彦?我が輩の魔力でこうなっているんだが、我が輩の機嫌をあまり損ねない方がいいぞ?誠心誠意、心をこめてお願いすれば、今すぐ元に戻してやってもいいのだが」
アルジェントは不敵な笑みを湛えて空中に浮いている。
「どうすれば元通りにしてくれるんだ?」
金澤さんがアルジェントに訊いている。
アルジェントは魔法を緩めているらしく、彼からも私の目からも姿がはっきりと見えているのだろう。
「そうだなあ……」
アルジェントめ、困惑する私たち二人を見下ろして、いかにも楽しそうに笑っている。
「三遍廻ってワンと言うのだ!そうしたら今すぐ魔法を解いてやるのだ」
「断る」
間髪入れずに私は跳ねつけたが、あろうことか金澤さんは、その場でそれをやり始めたではないか……
……勘弁してくれ……
自分自身が、笑顔を作りながらあんな子供騙しなことをしている姿を直視したくない。
「ほら、金澤紘人は素直なのだ。では吉羅暁彦!おまえもやるのだ。でないと一生そのままだぞ?」
実に愉快そうに私を見下ろしているアルジェントが、くだらない芸当を私に強要してきた。
久々に街中で痛飲し、酔い潰れかけた彼を彼の自宅にタクシーで送ったところまでは覚えている。
彼の部屋に行き、そのまま寝入ろうとしたのを止めてシャワーだけは浴びるように言い、そして帰ろうとしたのだが。
シャワーから出た後に気分が悪くなったと言い出した彼に付き添っていた。
それも覚えている。
だがしかし、その後の記憶が途絶している。
私はそれほど飲んだわけでもないのに、一体どうした訳なのか――
思い出そうとすると頭痛がしてきた。
悪酔いの果てに記憶が途絶えるだなんてことは、学生時代に悪い遊びを覚え始めた頃以来な気がする。
ふと脇を見ると、そこに信じがたい光景があった。
私の隣に、――他ならぬ私自身が横たわって大の字になって寝ているのを発見したのだ。
さすがの私も思考が停止してしまった。
ここで思い至る一番の理由は、これが夢だということだ。
それならば納得できる。
夢ならばどんなに馬鹿げたことでも、不条理な出来事が生じても、夢だからの一言で全てが成立してしまうからだ。
まさかと思って浴室脇の鏡を見ると、……私は彼、金澤紘人の姿になっているではないか。
これが悪夢以外の何物なのだと言うのだ。
今日は月曜日、それぞれに星奏学院での仕事が待ち受けている。
それなのにこの有様では、どうすればいいのか。
「あーあ……よく寝た~」
……ベッドでは、私の姿をした金澤さんが、私の声で暢気な言葉を発していた。
ちょっと……そこで、Tシャツに手を突っ込まないでくれないか。
……あまつさえ、下着に手を入れてその中を、尻を掻くなと……
己のあまりにも情けない姿を見ていて、忸怩たる思いにかられた。
「あー、あー。なんか俺、声変だな。まるで吉羅の声みたいになっちまってるぞ」
喉元を押さえている彼、つまりは私の姿をした金澤さんが起き上がってこちらを見た。
「おわっ、なんだよ。俺、昨日は相当酔ったのかな。なんで鏡の前で寝てたんだよ?」
しかし彼は、相変わらず喉を押さえている。
「声が、喉の調子がおかしいし。第一、これ……鏡じゃねえよな?」
「おはようございます。金澤さん」
私は彼、金澤さんの声で相当に間の抜けた朝の挨拶をした。
Tシャツにトランクスという姿でいるのが嫌で、早く着替えたい。
「はあ?俺が喋ってやがる。やっべえなあ、昨日の酒がまだ抜けてねえのかな」
「――頼むから、私の姿でその乱暴な口調はやめてもらえませんか。人格が疑われる」
私の言葉がまだ飲み込めていないようで、彼は呆然としている様子だった。
ここからが大変だった。
どうやらお互いの中身が入れ替わってしまったことを説明し、おそらくアルジェント・リリの悪ふざけに違いないという結論に達するまで約五分以上かかった。
「わかったよ。言葉はなるべく改めるように努力はする。けど、おまえも俺なんだから、ちょっとは俺らしくしないと生徒に怪しまれるぞ」
「精神的に不安定だとか、酔いが回っただけだと言えば、後日なんとでも修正は効くでしょう。それより、今日は金澤さんは授業は何コマ入っていますか?」
「午前に一コマ、午後に二コマだよ。最後はうちのクラス、3のAだ」
「それよりも……今日は夕方から、理事会とPTA幹部との会食があるんです」
「ああ、例の豚みてえな香水ババアが来るのかよ。お気の毒さまだよなあ」
「何を言っているんです。その相手をするのが、あなたなんですよ。私の姿をしている金澤さんの役割なんですよ、お間違えなく」
一瞬彼が黙った後に「はあ?!」と大声で素っ頓狂な声をあげた。
「うわっ、勘弁してくれよおい、おまえあれだろ、体触られたりしたんだろ?あんなババア、今度は何すっかわかんねえぞ。俺のチン×でも触ろうとしようもんなら、温厚な俺もさすがに――」
「……だから、私の人格が疑われるような下劣な言葉を口に出すのは、よしてくれませんか」
下品な言葉を喋っている自分の姿が、本当だとは思いたくない……
「何言ってやがる、すかしやがって。おまえみてーなムッツリした野郎に限って中身はドスケベって相場が決まってんだよなあ。日野にそのお下品な言葉でも言わせてんじゃねえのかよ?」
「――いい加減にしてくれませんか。それから、着替えはどこですか?あなたもそろそろ着替えないとですね……」
「おお、怖っ。けど、俺の顔でんなこと言われても説得力ねえなあ、我ながら」
幸い身長は同じだが、金澤さんはカジュアルな服装しかないに等しい。
彼はスーツを着ていくべきなのだが、これはラフな服で行かせて、理事長室に置いてある予備のスーツに着替えてもらうしかない。
最初は私の部屋に寄ってからにしてもらおうと思っていたが、時間もない。
仕方がないのでタクシーで星奏学院まで出向いて行く。
もちろん彼……私の姿をした金澤さんも一緒だ。
今日は午後まではアポイントもないのだが、問題は夕方以降だ。
金澤さんの暴走を抑制するために、特別措置と称して食事会について行こうかと思うが、それを彼の口から説明させねばならない。
さっさと理事長室まで出向き、二人で中まで入った。
カジュアルウェアで歩いている私を、早朝練習で登校している生徒たちに、不審そうな目でじろじろと見られてしまった。
「さあ、早いところスーツに着替えてください。そんな格好でいたのを、生徒に見咎められてしまった」
最初はデニムパンツで登校しようとしていた彼だが、あいにく彼と私のサイズは違うのでそれは阻止できた。
そのかわりにサイズが微妙に異なっても大丈夫なチノパンを穿かせたが、それでも理事長としての私は、もはやスーツ姿が仕事着と化しているので、スーツでない服装でいること自体に違和感がある。
「ゼニアかよ。相変わらず気取ってやがるなあ、おまえさん」
ワイシャツを羽織った後でスーツを着用する彼……私の姿を見ていると、実に奇妙な気分にさせられていた。
「おーおー、ネクタイまでゼニアか。こいつ一本でそこらの吊るしのスーツが買えるんだよなあ。この金満男が」
無礼なことを言う彼をじろりと横目で一瞥する……が、私の姿の彼は少しも堪えていない様子だ。
「いいですか、午前中は寝ていて英気を養ってくれていても構いませんが。来客には応えなくていいし、電話にも出ないでください。とにかく、夕方の例の会食までは何もしないように」
「おっ、ラッキー!そんじゃあ俺は、おっしゃる通りに心ゆくまで休息に宛てさせてもらうわ」
彼は私がいつも座っている革製の椅子に腰掛け、満足そうにその上で体を揺すっている。
「すっげえ座り心地いいのな、この社長椅子。んで、ここでおまえ気取って『日野君。コーヒーを一杯頼むよ』なんつってんのかよ」
「金澤さん。一コマ目なんですが、音楽鑑賞ですよね?」
「ああ、そいつは楽でいいぞ。DVD見せて、適当に感想文書かせて回収して終わりだからな」
「そのDVDはどこにあるんです?」
「音楽準備室のとこに置いてあるよ。白いケースに入ってるやつ二枚な」
「準備室の、白いケースですね」
早いところ、クラスに出向いてSHRをこなさなければ。
慌しくしているところに、不意に甲高い笑い声が響いた。
「吉羅暁彦に、金澤紘人。おまえたちにトクベツな一日をプレゼントしてやったぞ!」
「……アルジェント。やっぱりおまえの仕業か。さっさと元に戻せ」
「おっ?おお?そんな不遜な態度でいいのかな、吉羅暁彦?我が輩の魔力でこうなっているんだが、我が輩の機嫌をあまり損ねない方がいいぞ?誠心誠意、心をこめてお願いすれば、今すぐ元に戻してやってもいいのだが」
アルジェントは不敵な笑みを湛えて空中に浮いている。
「どうすれば元通りにしてくれるんだ?」
金澤さんがアルジェントに訊いている。
アルジェントは魔法を緩めているらしく、彼からも私の目からも姿がはっきりと見えているのだろう。
「そうだなあ……」
アルジェントめ、困惑する私たち二人を見下ろして、いかにも楽しそうに笑っている。
「三遍廻ってワンと言うのだ!そうしたら今すぐ魔法を解いてやるのだ」
「断る」
間髪入れずに私は跳ねつけたが、あろうことか金澤さんは、その場でそれをやり始めたではないか……
……勘弁してくれ……
自分自身が、笑顔を作りながらあんな子供騙しなことをしている姿を直視したくない。
「ほら、金澤紘人は素直なのだ。では吉羅暁彦!おまえもやるのだ。でないと一生そのままだぞ?」
実に愉快そうに私を見下ろしているアルジェントが、くだらない芸当を私に強要してきた。
プロフィール
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yukapi
性別:
女性
職業:
派遣社員だけどフルタイム 仕事キツい
趣味:
読書。絵を描くこと、文章を書くこと。
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