「ねえ、アッキー♪」
香穂子は、暁彦の背中からふざけてそう呼びかけてみた。
「なんだよ、いきなり」
暁彦は半笑いになりながらも、香穂子の方を向いた。
「あっちゃん。あーちゃん。アキ。あっくん……渾名で呼ばれるなら、どれがいい？」
香穂子はニコニコしながらそんな提案をしてみた。
「うーん……そうだなあ……」
暁彦は腕を組んで、暫し思案顔になった。

「んー……なんかどうも、しっくりこないや。暁彦って呼ばれるのが、僕は一番好きかなあ」
ちょっと照れた様子でそんな風に言う暁彦が愛おしかった。


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「ねえ、アッキー♪」
香穂子は、吉羅の背後からそんなふざけた呼びかけをしてみた。
彼女の方を振り返る吉羅の眉が顰められて、その表情には明らかな不快感が滲んでいる。
低い声で問い返されてしまった。
「……なんだって？」
「え、アッキーじゃ駄目ですか？じゃあ、あっちゃん。あーちゃん、あっくん、アキ。アキちゃん。呼ばれるなら、どれがいいですか？」
「………………」

眉根に皺を寄せながら香穂子を見る吉羅が、俯いてわざとらしく溜息をついた。
「だいぶ疲れているようだね。早く帰って休んだ方がいいんじゃないのかね」
「……もう、理事長、頭固いんだから……」
香穂子は冗談に付き合ってはくれない吉羅にブツブツと文句を呟いた。
いつもきつい冗談を飛ばしてくるのは自分の方こそなのに。
「どれも好ましくはないね。大体、名前ですらろくに呼んではくれないくせに」
吉羅は小さく呟いたのを香穂子は聞き逃さなかった。
が、聞こえていなかったふりをする。

「私、理事長のお名前好きですよ。素敵なお名前ですよね。かっこいいって言うか」
そう言うくせに、絶対に肝心な名前では呼んでやらない。

吉羅の顔からは、彼の感情は読み取れなかった。
「私が、つい理事長を暁彦さん呼ばわりしてしまったら、困ったことになっちゃいますよね？だから、その用心のために言わないようにしてるんです」
吉羅は照れているのか聞こえてはいないのか、香穂子に背中を向け続けていた。



（すいません、高一暁彦君と大人理事長の差を書きたかったのです）

[8回]