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Since2013.10~「100万人の金色のコルダ」、漫画金色のコルダ、Vitaのゲームをベースに、吉羅暁彦理事長と日野香穂子の小説を連載しています。現在単発で吉羅理事長楽章ノベライズや、オクターヴの補完テキスト、パロディマンガ無料掲載中。一部パスワードあり
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――新年度、新学期を迎える四月一日。
香穂子は今日から事実上三年生となる。
今日からは音楽科の生徒として星奏学院に在籍するということになる。
彼女には吉羅の口からクラス担任が金澤であること、そして伴奏者のピアノ専攻である森と同じクラスで月森と土浦とは違うクラスであることが知らされている。
しかし他の生徒たちは香穂子と違ってそんな内部事情が入手できないので、クラス分け等が発表されるまでは、一言でもそのようなことは他言できない。
でなければ贔屓だなんだと、香穂子を糾弾する声が大きくなってしまうのに違いないのだから。

念のためにと吉羅にそのようなことを注意されてはいたが、香穂子は彼の言葉を耳にするまでもなく気をつけようと思っていた。

これまでとは違って、香穂子の挙動により一層の注意を払っていかなければならないとも思っている。
森にはコンクールのための伴奏を手伝ってもらうので、彼女とまず午前中に合奏し、それを午後王崎に指導をしてもらうことになっている。
森と待ち合わせで登校するが、音楽科の制服を初めて着用して登校するのがなんとも言えずに気恥ずかしい。
森にも王崎にも似合っていると言われるが、この格好で校内を動き回ると、顔見知りの生徒が何人か声をかけてきたり、香穂子の周囲はやや賑やかになった。
音楽科への転科はおおむね好評な様子だったが、まだ自主練習で登校している生徒が少ないので和やかに進んでいる状況だった。

合奏の出来はまずまずで、森からも王崎からも香穂子の技術を褒めてもらうことができた。
五月のコンクールの前に理事会含めたPTA総会での演奏をしなければならないが、見知らぬ人間たちに一回こっきりの姿を見せればいいコンクールよりも、総会での演奏の方が気が重かった。
吉羅が理事長ではあるものの、理事の間では彼の強引な経営手腕を苦々しく思っている者もいるようだし、学院の創立者が代々理事長を務める親族経営であるのに、年長者を差し置いて、若く財務に詳しい彼が抜擢されたことに対する反発もあるらしい。

当の本人にとっては、理事長になれと言われる以前に、まず理事に仕立て上げられたこと自体、それこそ迷惑にしか思っていなかったらしいのだが。
本人の思惑を離れた場所での、魑魅魍魎との暗闘も吉羅を消耗させているのはPTA副会長の件でも推して知るべし、だった。
自分の成功如何がそのまま吉羅の理事長としての才覚に影響し、同時に彼のマネージメント能力も問われることになる。
未だに星奏学院の経営不振が噂される中での建て直しがあり、経営状況等の明細が寄付金を生徒のために支払う保護者の代表、つまりPTAが集う総会の場で明らかにされる。
香穂子にとっても吉羅にとっても力量を試される正念場でもあり、自分たちはある種の運命共同体であるということを吉羅から示唆されていた。
互いが互いにこれほどまでに影響が大きい存在になるとは、彼と知り合った去年の秋口には想像もしていなかった。
高圧的で冷淡な男だという印象が強く、どちらかというと香穂子は彼を苦手として避けて通りたい相手と捉えていたのが、今では嘘のように思えてくる。
すっかり身も心も奪われ、捕われてしまっている。
彼の手の内で庇護され守られ、そのお陰で今自分は音楽科の制服を身につけてここにいるのだから、彼の期待に少しでも報いたいと真摯に願っていた。


音楽室で森と演奏をし、王崎に指導をされている最中に珍しく吉羅がやって来た。
「ああ、森君もお揃いか。森君も、大体の話は日野君と王崎君から聞いているかね?」
「はい。PTA総会とコンクールで愛の挨拶を演奏するんですよね」
「総会の日は五月の十日、土曜日の夜になる。君らにとっては休日のところなので申し訳ないが、よろしく頼むよ」
コンクールの要綱を改めて森と一緒に確認するが、コンクールは翌週の土曜、十七日。
「あまり日が空いてないけど、これくらいの方が緊張感持続していいかも」と香穂子が言うと森も賛同してくれた。
「日野ちゃんやる気充分だね!その調子でいきましょう」

そんな様子を眺めていた吉羅が、合奏を聴かせて欲しいと要望してきたので一回合わせる様子を見ていてもらった。
拍手とともに論評があった。
「まあ、悪くはないんじゃないか」
大抵は辛辣な吉羅の評価の中で、これは褒め言葉になる。
「これからも、進捗状況を週一程度に聴かせてもらいたい。あとは頑張ってくれたまえ」
吉羅が出て行くと、音楽室の中に俄かに漲っていた緊張感が明らかに緩んでいった。
「あーびっくりした。まさか理事長に直々に演奏聞かれるとか思わなかったわ」
森があからさまに安堵したように、胸に手を当てていた。

「それだけ、理事長も日野さんたちに期待しているんだよ。なにせ、普通科から才能を見出されて音楽科に転科というのはめったにあるものじゃないしね」
王崎が柔らかくフォローしてくれるが、それでも森は緊張すると言っていた。
「そういえば、土浦君も音楽科に転科してるのよね?でも、彼指揮者を目指してるんだって?びっくりしちゃった。てっきりピアノ専攻でライバルが増えちゃうと思ってたから、拍子抜けよ」
森はさも意外そうに土浦について語った。
「あれだけ弾けるのにピアニスト目指さないなんて、かなりもったいない気もするけどね……」
香穂子もそれには同意した。

「彼と同じクラスになっちゃったら辛いなあ。だって指揮者志望の土浦君の方が私よりずっとうまいんだもん、ピアノ専攻の立場ないよ~」
「そんなことないって。森さんの音、私大好きだから」
「うん、ほんと。森さんのタッチは柔らかくて優しくて、性格がよく出てるなあと思うよ。日野さんと似たタイプで、相性はすごくいいと思うけどな」
王崎がにこにこしながらさりげなく賛辞をくれる。
穏やかな時間を過ごすことができて、今の香穂子にはこんなレッスンの合間の雑談も嬉しかった。

通常時程と同じような感覚で、伴奏の森は先に帰宅し、香穂子は居残りをしていた。
王崎は大学の方へと戻って行った。
多忙な王崎だが、吉羅からの指名を受けているので香穂子へのレッスンを週二は欠かさずに見てくれている。
音楽科では専任の講師がこれから香穂子にも付くわけだが、個人レッスンの授業が増えれば王崎への負担もずっと減るはずだ。
これまで以上にヴァイオリンを弾く機会が増えることに、しみじみと喜びが沸きあがってくる。
普通科の自分がヴァイオリンに没頭するためには放課後の友人との時間や、睡眠時間、場合によっては学習時間までも犠牲にしなくてはならなかった。
これからは、沢山の時間をヴァイオリンの演奏に充てることができる。

しかも特待生なので無償で、コンサートへの優先的な出場のために便宜を図ってもらえる。
なにもかも理事長の吉羅のおかげだと考えると、改めて感謝の念を示したくなってくる。

しかし、理事長としての立場を離れ、恋愛相手としての吉羅となると話は別だった。
最近は彼に意地の悪い仕掛けをされたりしてばかりで、刺激が強いが振り回されている側面が強くて気持ちが休まらない。
それも彼に言わせれば、自分の言いつけを守らない香穂子へ与える罰なのだろうけれど。
少しばかりの疲労を感じているのは事実だった。

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