Since2013.10~「100万人の金色のコルダ」、漫画金色のコルダ、Vitaのゲームをベースに、吉羅暁彦理事長と日野香穂子の小説を連載しています。現在単発で吉羅理事長楽章ノベライズや、オクターヴの補完テキスト、パロディマンガ無料掲載中。一部パスワードあり
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――入学式の当日。
僕はなんの因果やら、入試得点で一位を獲っていまい、新入生代表として挨拶文を読み上げる役目を仰せつかってしまった。
割合と高得点だと自覚はしていたが、まさか首席になってしまうなどとは。
僕は、基本的にあまり目立ちたくないと思っている。
しかし、これでは否応なく注目を浴びてしまうのが嫌だった。
書いてある文を読み上げれば済む。
それだけのことだ。
ここで即興でソロ演奏をしろというのでもない。
僕はあがるタチではない。
いざ舞台となればそれなりに腹を括るし、あとは出たとこ勝負だという度胸は、これまでのコンクール等の場数を踏んだ経験がものを言う。
「新入生代表。吉羅暁彦――」
司会の教師の声が僕を呼び、僕は講堂の壇上に上がった。
「えー、僕たち新入生は、この栄えある日に星奏学院への入学を果たし……」
白々しい言葉の羅列。
ここに書いてある文言が僕の本音で真実だなんて、誰が思うものか。
表面だけ美辞麗句を並べ立てることなんて造作も無い。
伊達に、これまでに山ほど本を読んでいない。
僕はそんな醒めた気持ちで新入生代表の言葉を読み上げ、壇上から降りた。
ざわつく講堂内。
音楽科なのに全体の首席を獲ってしまったのが、話題に上っているらしい。
「あの子可愛い」とか「かっこいい」とか、そんな僕を誉めそやす女子生徒の声も聞こえてくる。
教室に戻り、最初は出席番号順に並んだ席につかされる。
一言ずつの自己紹介をするという決まりきった教師からの要請に、僕は得意教科と趣味は読書と言って座った。
「ね、すごいね。吉羅君て言うの?かっこいいのに頭もいいなんて、すごいって」
僕の席近くになった複数の女子生徒から、早速声をかけられた。
「……大したことないよ。偶然だよ」
「ね、クラブ何にするの?やっぱり吹奏楽か何か?」
「まだわからない。もしかして帰宅部かもしれないし」
まだ話を続けたそうな女子生徒を遮り、僕は席を立った。
「この後、受け持ちの先生に挨拶をしてこなきゃ。君らもそうだろ?」
ヴァイオリン専攻の僕は、僕の指導を受け持つ教師との面談がある。
クラスは便宜上生徒が寄せ集められているだけで、教科単位制の高等部の中でも、音楽科の授業は更に専攻科によって細かく区分けされている。
早い話、レッスンに集中したい環境でいられるはず、なのだが――
僕の受け持ちとなる先生と挨拶がてらに軽く雑談をして、それから一曲弾いてみる流れになった。
実技の上でもトップクラスだとか誉めそやされたが、どうもこそばゆい。
トップクラス……か。
事実上のナンバーワンになりたい。
一年の中での一番を目指す。
それが僕の中での目標になった。
そんなことを先生に話すと「それくらいの勝気なくらいがいい」と、これまた僕を後押ししてくれる発言があった。
教師との相性というものがあるのは間違いないので、僕はほっとした。
僕はアクセントが強いと指摘を受けていて、それを改善するようにと言われていた。
僕は練習室を出て、自分の教室に戻ろうとした。
すると、入り口の前に見覚えのある人物が佇んでいるではないか。
忘れようったって忘れられない、この前、僕にぶつかってきた大男がそこにいた。
「――よう」
そいつは軽く手を上げて、まるで既知の知人のように振舞っている。
「おまえ、美夜の弟なんだってな?道理で、そっくりな顔してると思ったよ」
そいつは、不敵な笑いを浮かべて僕を見下ろしている。
まだ身長が170に満たない僕より十センチ以上背が高いだろう。
「あなたは一体誰なんですか?――自分は名乗りもしないで、一方的に僕のことを詮索しようなんてのは、正直愉快じゃないですね」
「ああ、自己紹介してなかったっけ?俺、金澤。金澤紘人。お前の姉ちゃん、美夜と同じクラスなんだ。つまり三年生ってわけだよ」
にやにやと、人を小ばかにするような視線を向けているそいつは金澤と名乗った。
人の姉の名前を、ずいぶんと気安く呼び捨てにしてくれるものだ。
僕は内心不快感でいっぱいだったが、敢えて言わずにおいた。
「ふーん……」
僕を無遠慮に眺める視線は、明らかに値踏みをしているに違いない。
僕がどのくらいの器量なのか、どこをどう突つけばどう反応するのかを窺っているんだ。
「で、金澤先輩は、わざわざ僕に挨拶しに来てくださったわけですか?」
「ああ。お前さんも人が悪いよな。あん時、俺に名乗ってくれてりゃよかったのに。どっかで見た顔だと思ったのは、そうだなあ。姉ちゃんの美夜と瓜二つってやつだからか」
「――あの」
僕はとうとう腹に据えかねてきた。
「さっきから、馴れ馴れしく姉を呼び捨ててくれてますが。あなたはなんですか?姉の恋人か何か?」
そいつは一瞬きょとんとした、呆けたような顔つきになった後に、またあの含むような笑みを浮かべた。
「そうだとしたら?――妬いてんのか、暁彦ちゃんは?」
僕は、頭の奥がかっと灼熱するような感覚に襲われた。
「なんだ、図星か?シスコンってやつかね、お前さん?ったく、駄目だぞ?高一にもなって姉ちゃんにべったりじゃ、そのうち呆れ――」
僕の顔の方に差し出してくるそいつの手を、怒りのあまりに振り払った。
「あんたには関係ない」
僕は憤然として、鞄を持って教室から出た。
さっきまでの気分が台無しだ。
こんなふざけた男と付き合ってるのなら、姉の目は曇っているとしか思えない。
僕をからかい、馬鹿にするためにわざわざ教室にまで足を運んだのだとしたら、人を見下すのにも程がある。
僕は頭に血が昇った状態を不快に感じつつ家路についた。
僕はなんの因果やら、入試得点で一位を獲っていまい、新入生代表として挨拶文を読み上げる役目を仰せつかってしまった。
割合と高得点だと自覚はしていたが、まさか首席になってしまうなどとは。
僕は、基本的にあまり目立ちたくないと思っている。
しかし、これでは否応なく注目を浴びてしまうのが嫌だった。
書いてある文を読み上げれば済む。
それだけのことだ。
ここで即興でソロ演奏をしろというのでもない。
僕はあがるタチではない。
いざ舞台となればそれなりに腹を括るし、あとは出たとこ勝負だという度胸は、これまでのコンクール等の場数を踏んだ経験がものを言う。
「新入生代表。吉羅暁彦――」
司会の教師の声が僕を呼び、僕は講堂の壇上に上がった。
「えー、僕たち新入生は、この栄えある日に星奏学院への入学を果たし……」
白々しい言葉の羅列。
ここに書いてある文言が僕の本音で真実だなんて、誰が思うものか。
表面だけ美辞麗句を並べ立てることなんて造作も無い。
伊達に、これまでに山ほど本を読んでいない。
僕はそんな醒めた気持ちで新入生代表の言葉を読み上げ、壇上から降りた。
ざわつく講堂内。
音楽科なのに全体の首席を獲ってしまったのが、話題に上っているらしい。
「あの子可愛い」とか「かっこいい」とか、そんな僕を誉めそやす女子生徒の声も聞こえてくる。
教室に戻り、最初は出席番号順に並んだ席につかされる。
一言ずつの自己紹介をするという決まりきった教師からの要請に、僕は得意教科と趣味は読書と言って座った。
「ね、すごいね。吉羅君て言うの?かっこいいのに頭もいいなんて、すごいって」
僕の席近くになった複数の女子生徒から、早速声をかけられた。
「……大したことないよ。偶然だよ」
「ね、クラブ何にするの?やっぱり吹奏楽か何か?」
「まだわからない。もしかして帰宅部かもしれないし」
まだ話を続けたそうな女子生徒を遮り、僕は席を立った。
「この後、受け持ちの先生に挨拶をしてこなきゃ。君らもそうだろ?」
ヴァイオリン専攻の僕は、僕の指導を受け持つ教師との面談がある。
クラスは便宜上生徒が寄せ集められているだけで、教科単位制の高等部の中でも、音楽科の授業は更に専攻科によって細かく区分けされている。
早い話、レッスンに集中したい環境でいられるはず、なのだが――
僕の受け持ちとなる先生と挨拶がてらに軽く雑談をして、それから一曲弾いてみる流れになった。
実技の上でもトップクラスだとか誉めそやされたが、どうもこそばゆい。
トップクラス……か。
事実上のナンバーワンになりたい。
一年の中での一番を目指す。
それが僕の中での目標になった。
そんなことを先生に話すと「それくらいの勝気なくらいがいい」と、これまた僕を後押ししてくれる発言があった。
教師との相性というものがあるのは間違いないので、僕はほっとした。
僕はアクセントが強いと指摘を受けていて、それを改善するようにと言われていた。
僕は練習室を出て、自分の教室に戻ろうとした。
すると、入り口の前に見覚えのある人物が佇んでいるではないか。
忘れようったって忘れられない、この前、僕にぶつかってきた大男がそこにいた。
「――よう」
そいつは軽く手を上げて、まるで既知の知人のように振舞っている。
「おまえ、美夜の弟なんだってな?道理で、そっくりな顔してると思ったよ」
そいつは、不敵な笑いを浮かべて僕を見下ろしている。
まだ身長が170に満たない僕より十センチ以上背が高いだろう。
「あなたは一体誰なんですか?――自分は名乗りもしないで、一方的に僕のことを詮索しようなんてのは、正直愉快じゃないですね」
「ああ、自己紹介してなかったっけ?俺、金澤。金澤紘人。お前の姉ちゃん、美夜と同じクラスなんだ。つまり三年生ってわけだよ」
にやにやと、人を小ばかにするような視線を向けているそいつは金澤と名乗った。
人の姉の名前を、ずいぶんと気安く呼び捨てにしてくれるものだ。
僕は内心不快感でいっぱいだったが、敢えて言わずにおいた。
「ふーん……」
僕を無遠慮に眺める視線は、明らかに値踏みをしているに違いない。
僕がどのくらいの器量なのか、どこをどう突つけばどう反応するのかを窺っているんだ。
「で、金澤先輩は、わざわざ僕に挨拶しに来てくださったわけですか?」
「ああ。お前さんも人が悪いよな。あん時、俺に名乗ってくれてりゃよかったのに。どっかで見た顔だと思ったのは、そうだなあ。姉ちゃんの美夜と瓜二つってやつだからか」
「――あの」
僕はとうとう腹に据えかねてきた。
「さっきから、馴れ馴れしく姉を呼び捨ててくれてますが。あなたはなんですか?姉の恋人か何か?」
そいつは一瞬きょとんとした、呆けたような顔つきになった後に、またあの含むような笑みを浮かべた。
「そうだとしたら?――妬いてんのか、暁彦ちゃんは?」
僕は、頭の奥がかっと灼熱するような感覚に襲われた。
「なんだ、図星か?シスコンってやつかね、お前さん?ったく、駄目だぞ?高一にもなって姉ちゃんにべったりじゃ、そのうち呆れ――」
僕の顔の方に差し出してくるそいつの手を、怒りのあまりに振り払った。
「あんたには関係ない」
僕は憤然として、鞄を持って教室から出た。
さっきまでの気分が台無しだ。
こんなふざけた男と付き合ってるのなら、姉の目は曇っているとしか思えない。
僕をからかい、馬鹿にするためにわざわざ教室にまで足を運んだのだとしたら、人を見下すのにも程がある。
僕は頭に血が昇った状態を不快に感じつつ家路についた。
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