Since2013.10~「100万人の金色のコルダ」、漫画金色のコルダ、Vitaのゲームをベースに、吉羅暁彦理事長と日野香穂子の小説を連載しています。現在単発で吉羅理事長楽章ノベライズや、オクターヴの補完テキスト、パロディマンガ無料掲載中。一部パスワードあり
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「――姉さん。あのさ、訊きたいことがあるんだ。金澤って奴と付き合ってるの?」
僕は、姉の帰宅を待ち構えて開口一番で疑問をぶつけた。
姉は驚きの表情を作ったが、次の瞬間笑い出した。
「やあね、そんなんじゃないわよ。クラスの中で比較的気が合うってだけの話で、付き合ってなんていないってば」
僕は少しばかり安堵しかけたが、思い直した。
「あの、金澤って先輩?僕のことからかいに来たんだよ。だからあんな奴、姉さんがどうしても好きだって言うんじゃなけりゃ……あんまり、親しくするのはどうかと思う」
僕は、姉が感じ取っていないだけで、実は金澤某から姉への好意があるんじゃないかと直感していた。
姉はお人好しで善人だから、ちょっと癖のある、腹に一物あるような輩の不届きな思惑に気付いてないんじゃないだろうか。
いや、気付けないのではないか。
僕は何か、割り切れないもやもやした想いが腹の奥底に淀んでいくような不快感を覚えていた。
まだ姉に話していなかった、それまでの概要をざっと説明してみた。
「え、何?暁彦が叔父さんと話しに行った時に金澤君とぶつかって?……で、彼がそれを詫びに来た、ってことなの?」
「違うよ!僕が新入生代表なんかになって、あんな思ってもない文を読み上げさせられたから。単純に興味が湧いたみたいだ。僕の顔が姉さんとそっくりだったから、すぐわかったなんて言ってさ。僕のことおちょくりに来たんだよ。ふざけてるよ、まったく」
シスコンだと言われて、更に図星かと追撃を受けた瞬間に、僕はついかっとなってしまって――
相手が僕より上背がある先輩じゃなければ、胸倉の一つも掴んで謝罪を迫っただろう。
だが、相手が相手なので僕は強い手段には出られなかった。
悔しさを胸に溜めたままこらえなければならなかった、のだが。
もしもあの時、僕が金澤某に掴みかかったりしていたとしたら。
入学式早々、事もあろうに新入生代表役を務めた(一応成績優秀な)生徒が喧嘩沙汰を起こしたと知れたら――それを想像して、僕はぞっとした。
そうなれば姉にも迷惑をかけてしまう。
向こうは三年生だからと自制に自制を重ねて、僕はその場を立ち去るしかなかったのだ。
僕を挑発する金澤某に、そこはかとない悪意が見え隠れしているのがわかる。
それは、姉と仲のいい僕を排除するという意図があるんじゃないだろうか。
自覚はあまりないが、僕と姉の仲のよさは珍しいものらしい。
僕と同年代の男連中は、異性の姉や妹なんかと暮らしていれば、まずは鬱陶しいという感想を持つものだそうだ。
中にはろくに顔も合わせず、口もきかないなんてのも聞いたことがある。
姉は僕より二歳年上で、一見しっかりしているように見える。
だが、世の中は善いことで溢れていると信じている人のいい姉を利用したり、都合のいいように扱う他人もいるのだ。
僕が守ってやらなくちゃと思えるようになってきたのは、僕の身長が姉を越した前後からだと思う。
これは一種の庇護欲であって、決して異常なまでの接近ではない。
僕はそう考えていた。
「暁彦、考えすぎじゃない?金澤君が、あなたに悪感情を持つ理由なんて考えられないわよ」
「――とにかく。姉さんがあいつと関わるのを僕は止める権利ないにしても、僕は好きになれないよ。それだけ、心に留めといて」
駄目だ、これ以上話したとしても平行線だ。
いきなり現れたと思ったら、馴れ馴れしく姉さんを呼び捨てにした上に、僕をまるで値踏みするようにしていた態度を許せない。
――シスコン?
どうでもいい、そんなの。
他人がどう思おうが勝手にすればいいんだ。
どうせろくに関わりも持たない野次馬が、面白おかしく醜聞仕立てにして楽しんでるだけなんだから。
くだらない。
音楽以外の事柄に煩わされたくない。
せっかく音楽学校に入ったんだ、おとなしく音楽に邁進させて欲しい。
だが、僕のそんな切実な願いをよそに、翌日から僕の身辺が騒がしくなってしまった。
昇降口だけで靴箱のないこの学校、僕の机に手紙が数通入っていた。
これが嬉しい手紙だけならばいいのだが、大抵は悪意を書き散らしたものまでセットになってくる。
そういうものなのだ。
やっかみか嫉妬か、男が書いたと思われる悪筆での汚らしい罵詈雑言だとか。
正面きって喧嘩を売ってこられる方が、まだマシだ。
男の嫉妬というのは、実は一番タチが悪いんじゃないだろうか……
どこの誰とも知らない女の子の自己紹介から始まって、よかったら電話をくれとか、会って欲しいとか。
ご丁寧に連絡先が添えられているものの、ラブレターを貰うことで本当に嬉しかったのは、小学生の中学年までの話だ。
自分の想像した通りに動かない、優しくない僕に焦れた少女の態度が見る間に豹変したり、まるで自分が被害者であるように泣くことで僕を責めたり。
ろくに顔も名前も知らない相手からのアプローチは、無視するに限る。
直接の対面を求めてきたにしても同じだ。
嫌がらせ目的で呼び出された経験もあるから、迂闊に動かない方がいい。
これは、僕が今までに体感して得た教訓だ。
僕は、姉の帰宅を待ち構えて開口一番で疑問をぶつけた。
姉は驚きの表情を作ったが、次の瞬間笑い出した。
「やあね、そんなんじゃないわよ。クラスの中で比較的気が合うってだけの話で、付き合ってなんていないってば」
僕は少しばかり安堵しかけたが、思い直した。
「あの、金澤って先輩?僕のことからかいに来たんだよ。だからあんな奴、姉さんがどうしても好きだって言うんじゃなけりゃ……あんまり、親しくするのはどうかと思う」
僕は、姉が感じ取っていないだけで、実は金澤某から姉への好意があるんじゃないかと直感していた。
姉はお人好しで善人だから、ちょっと癖のある、腹に一物あるような輩の不届きな思惑に気付いてないんじゃないだろうか。
いや、気付けないのではないか。
僕は何か、割り切れないもやもやした想いが腹の奥底に淀んでいくような不快感を覚えていた。
まだ姉に話していなかった、それまでの概要をざっと説明してみた。
「え、何?暁彦が叔父さんと話しに行った時に金澤君とぶつかって?……で、彼がそれを詫びに来た、ってことなの?」
「違うよ!僕が新入生代表なんかになって、あんな思ってもない文を読み上げさせられたから。単純に興味が湧いたみたいだ。僕の顔が姉さんとそっくりだったから、すぐわかったなんて言ってさ。僕のことおちょくりに来たんだよ。ふざけてるよ、まったく」
シスコンだと言われて、更に図星かと追撃を受けた瞬間に、僕はついかっとなってしまって――
相手が僕より上背がある先輩じゃなければ、胸倉の一つも掴んで謝罪を迫っただろう。
だが、相手が相手なので僕は強い手段には出られなかった。
悔しさを胸に溜めたままこらえなければならなかった、のだが。
もしもあの時、僕が金澤某に掴みかかったりしていたとしたら。
入学式早々、事もあろうに新入生代表役を務めた(一応成績優秀な)生徒が喧嘩沙汰を起こしたと知れたら――それを想像して、僕はぞっとした。
そうなれば姉にも迷惑をかけてしまう。
向こうは三年生だからと自制に自制を重ねて、僕はその場を立ち去るしかなかったのだ。
僕を挑発する金澤某に、そこはかとない悪意が見え隠れしているのがわかる。
それは、姉と仲のいい僕を排除するという意図があるんじゃないだろうか。
自覚はあまりないが、僕と姉の仲のよさは珍しいものらしい。
僕と同年代の男連中は、異性の姉や妹なんかと暮らしていれば、まずは鬱陶しいという感想を持つものだそうだ。
中にはろくに顔も合わせず、口もきかないなんてのも聞いたことがある。
姉は僕より二歳年上で、一見しっかりしているように見える。
だが、世の中は善いことで溢れていると信じている人のいい姉を利用したり、都合のいいように扱う他人もいるのだ。
僕が守ってやらなくちゃと思えるようになってきたのは、僕の身長が姉を越した前後からだと思う。
これは一種の庇護欲であって、決して異常なまでの接近ではない。
僕はそう考えていた。
「暁彦、考えすぎじゃない?金澤君が、あなたに悪感情を持つ理由なんて考えられないわよ」
「――とにかく。姉さんがあいつと関わるのを僕は止める権利ないにしても、僕は好きになれないよ。それだけ、心に留めといて」
駄目だ、これ以上話したとしても平行線だ。
いきなり現れたと思ったら、馴れ馴れしく姉さんを呼び捨てにした上に、僕をまるで値踏みするようにしていた態度を許せない。
――シスコン?
どうでもいい、そんなの。
他人がどう思おうが勝手にすればいいんだ。
どうせろくに関わりも持たない野次馬が、面白おかしく醜聞仕立てにして楽しんでるだけなんだから。
くだらない。
音楽以外の事柄に煩わされたくない。
せっかく音楽学校に入ったんだ、おとなしく音楽に邁進させて欲しい。
だが、僕のそんな切実な願いをよそに、翌日から僕の身辺が騒がしくなってしまった。
昇降口だけで靴箱のないこの学校、僕の机に手紙が数通入っていた。
これが嬉しい手紙だけならばいいのだが、大抵は悪意を書き散らしたものまでセットになってくる。
そういうものなのだ。
やっかみか嫉妬か、男が書いたと思われる悪筆での汚らしい罵詈雑言だとか。
正面きって喧嘩を売ってこられる方が、まだマシだ。
男の嫉妬というのは、実は一番タチが悪いんじゃないだろうか……
どこの誰とも知らない女の子の自己紹介から始まって、よかったら電話をくれとか、会って欲しいとか。
ご丁寧に連絡先が添えられているものの、ラブレターを貰うことで本当に嬉しかったのは、小学生の中学年までの話だ。
自分の想像した通りに動かない、優しくない僕に焦れた少女の態度が見る間に豹変したり、まるで自分が被害者であるように泣くことで僕を責めたり。
ろくに顔も名前も知らない相手からのアプローチは、無視するに限る。
直接の対面を求めてきたにしても同じだ。
嫌がらせ目的で呼び出された経験もあるから、迂闊に動かない方がいい。
これは、僕が今までに体感して得た教訓だ。
僕はうんざりした気持ちで、これらの手紙の束をどう処分したものかと思案に暮れていた。
家にわざわざ持ち帰るのも馬鹿馬鹿しい。
かといって、そこらのゴミ箱に捨てていくのもよくはなさそうだ。
僕は、掃除の時に行くゴミ捨て場の近くに焼却炉があったのを思い出した。
ちょうど、今週は僕が掃除当番でもある。
ポケットの中などにさりげなく隠した手紙をゴミの中に混ぜて、紙ゴミを焼却中の炉の中に放り投げた。
ほっとして後ろを振り向くと、ゴミ箱を抱えた金澤先輩が佇んでいるではないか――
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